──その夜。


涼介さんによる『スペシャル美容DAY』とやらは結局22時近くまで続き、これ以上ないってほどにすべてのパーツを徹底的にメンテナンスされた私は、家のソファでぐったりとしていた。


なんだろう、この直射日光を浴び続けたみたいな半端ない疲労感。
恩はあるけれど、やっぱり私、あの人の限界オタク的なエネルギッシュさにはついていけない。

せっかくの休暇だっていうのに、逆にほとんどのエネルギーを吸い取られることとなった。休暇ってなんだっけ。

しかも、せっかく家に帰れたっていうのに琴乃と全然一緒に居れないし……。


内心愚痴りながら、私は家の大きなソファにうつ伏せに寝転がって、Xでエゴサをしていた。

私が三次審査の佳境で色々と忙しくしている間に、EP.3とEP.4が放送されていたらしい。

Xの反応を見るに、私たちの『SYNDICATE』グループはまだフォーカスされていないみたいだ。

……にも関わらず、『エマプロ 千歳』で検索すれば、かなりの数のポストが更新されている。

そして、そのうちの多くが、私と遥風の絡みについて言及しているようだった。


『これ遥風と千歳くん絡みある?!まさかの?!?!』
『皆戸遥風、隙あらば千歳くんに引っ付いてるのバレてるよかわいいね』
『遥千ケミちら見せしといてSYNDICATE回焦らしに焦らすエマくん本当にさぁ……』


……正直、ここまで話題になるとは思ってなかった。

別に話題になること自体はいいんだけど……この調子で注目され続けると、三次審査以降、ほぼ確実に不仲説が浮上する。

その時、理不尽に私に矛先が向いて、遥風のファンダムに責められるなんてことになったら……かなり面倒になる。

反対に、遥風側に非難が向くのもやめてほしいし……とにかく、あんまりこの話題が過熱しないでほしいな。


と、ちょっと眉根を寄せつつ、そんなことを考えていると。


「エゴサ?」


頭上から突如として振ってきた声に、ビクッと肩が跳ねた。

恐る恐る振り返ると──


そこに立っていたのは、やはり白藤天馬だった。


ベージュのコートに身を包んで、変装用であろう眼鏡をかけているところを見ると、おそらく今家に帰ってきたばかりなんだろう。

至近距離で感じるカリスマアイドルオーラに気圧され、思わず息を呑んで硬直してしまう。


「……そんな気まずそうにするなよ」
「えっと……すみません……」


大体の人相手なら、緊張していてもスラスラ話せるのに、この人を前にするとどうも本調子が出ない。芸能人オーラが桁違いすぎて、自然とこちらがコミュ障になってしまう。

ドサッと机の上に鞄を置き、コートを脱いでハンガーにかけ始める天馬。

彼を前にダラダラとスマホをいじっているのは気が引けたので、いそいそとうつ伏せから身体を起こし、ソファに座り直す。


すると。

天馬は、そのまま当然のように私のすぐ隣に腰を下ろしてきた。

特に話しかけてくることもなく、無言のままスマホをいじり始める。


……えー、と。

近くない?