一体今更何をするっていうんだろう。

前回、既にウィッグカットを完璧にしてくれているから、髪型をメンテナンスする必要なんてないだろうに。

毛質保つために交換とかしなきゃなのかな……?

内心ちょっと首を捻っていると、涼介さんが上機嫌でカラカラとワゴンを引いて裏から戻ってくる。

そして、そのワゴンの上には──何やら、ウィッグのようなもの。

しかも、前回までのウィッグとは明らかに違う──艶やかな黒髪のものだった。

ん……?

「……これは?」

訝しく思って聞くと、涼介さんはニヤ……と意味深な笑みを浮かべて言い放った。

「最終兵器よ」
「はい?」

微かに眉根を寄せる私に、ずいっ!と詰め寄ってくる涼介さん。

その勢いに、思わず気圧されてのけぞってしまう。

「つ・ま・り!これから始まる四次審査、視聴者たちが千歳くんの異常な顔面力に慣れ始める頃合いで──黒髪イメチェンを投下し、全人類の初恋を強奪しちゃおうという計画よ……!」

「はぁ……」

唖然とする私をよそに、壮大な世紀末計画を語るマッドサイエンティストの要領で私の背後を悠々と歩き出す涼介さん。

「黒髪の清楚さ、透明感で男女問わずリア恋沼にぶち落とし──最後のファイナル審査でいつもの色素薄い系ウィッグに戻すわけ。そして、ファンたちに『やっぱこれが至高……!』って唸らせてKO!千歳キングダムの出来上がりよー!!」

大丈夫?

引き気味で表情を強張らせる私に、有無を言わさず黒髪ウィッグをポスッと被せる涼介さん。

「さて、前回のウィッグカットより若干長めで行くわよ。カットが終わったら、スキンケア、眉毛に、まつ毛、ネイルケアまで一日で一気に仕上げちゃうんだから!ビジュアルを最大限まで引き上げる潮田涼介のスペシャル美容DAY、ご賞味あれ〜♡」

「……」

……流石に、察してしまう。

今日もおそらく、日が暮れるまでこの椅子から立てないコースだって。

キッツいな、これ……。

鏡越しに映る自分の顔には、試練を前にした者の疲労感がうっすらと滲み始めていたのだった。