一体なぜ、榛名優羽は私を家に呼び戻したのか。

その疑問は、帰宅の翌日にすぐに払拭されることとなる。

次の日の朝、ほとんど寝起きのままの私が連行されたのは、見覚えのあるガラス扉の前。


──『Lumiere Hair&Beauty』


そう。

二次審査の時に私の窮地を救ってくれたカリスマスタイリスト、潮田涼介さんが個人経営する高級美容サロンだ。

どうしてまた、こんな場所に……。

榛名優羽の家に越してきてすぐ、目的も告げられずにここに連行された時のことが鮮明に思い出されて思わず眉根を寄せてしまう。

と、そんな私の嫌な反応など意に介さず、榛名優羽は当然のように私をサロンの前に置き去りにしてベンツで走り去っていった。

マジでなんなの?
このまま逃げ出してやろうかな。

……と、そんなことを思ったけれど、琴乃という人質を取られている以上そういうわけにもいかなくて。

めちゃくちゃ不本意ながらも、私は目の前のガラス扉を押し開けるしか無かった。

そうして中に入った途端、今にもはち切れそうな衣装袋を両手に涼介さんが優雅に登場。

「冬が去って春が来る、衣替えの季節よね!ってわけで、この春服たち、ぜーんぶ優羽くんがお買い上げしてくれたわよ♡」

出迎え早々、そんな言葉と共にドサドサドサッ!と目の前に紙袋を何個も置かれて。

……正直、なんかもう既に帰りたい。

このとんでもない量の服たちから、榛名優羽からの期待と圧をビシバシと感じて、頭がくらりとしてくる。

けれど、当然それだけで終われるはずもなく。

前回のようにサロンの奥の方へ案内されて、明らかに上質そうなスタイリングチェアに座らされた。