「琴乃、本当失礼だからそういうのやめて」
「えーなんで。早くけっこんしてこども作ってほしいのにー」
「……」

……なんか、思春期前の子どもの無邪気な発言ほど怖いものってないかも。

何を言っても墓穴を掘るだけだと察した私は、半ば諦めにも似た心境で、ドサッとシートに身を預けた。

昨日から今日にかけて、色々なことが起こりすぎてもう何が何だか分からない。

一旦落ち着こう……。

そう思いながら、ふと車窓の外に視線を逸らしてみると──すでに外の景色は、街中から、閑静な住宅街に変わっていた。

土砂降りの雨はまだ止む気配がなく、窓を雨粒が絶え間なく伝っている。

そんな中で、前方に見えてきたのは、まるでSF映画に出てくるような──ステンレスとガラスを大胆に使った、曲線的なデザインの家。

……また、トラウマの記憶のピースが出てきたよ。

条件反射で逃げ出したくなるけれど、もちろんそんなことができるはずもなく。

高級感のある黒いボディに雨粒を跳ねさせながら、ベンツはするりとその建築の前に滑り込む。

──ああ。

榛名優羽の家に、再び帰ってきてしまった。

そんな実感が胸に湧き上がって、気分が一気に沈んで。

微かにため息を吐きながらも、私はシートから重い背を起こすのだった。