個人審査は、その後も続いた。
けれど、審査が進むにつれ、最初にステージに立った峰間京の存在がどれだけ突出していたかが浮き彫りになってくる。
次々と披露されるパフォーマンス。しかし、その大半が余裕の感じられない粗削りなものだった。
パニックになって歌詞を飛ばす者、振りを途中で飛ばし立ち尽くす者、焦りからリズムを崩し、歌が不安定になる者──。
ミスを重ねた参加者たちは、審査員たちの判断でパフォーマンスの中止を命じられる。厳しい講評に泣きながらステージを降り、友だちに慰められる参加者という構図が多く見られた。
けど、多分そう落ち込む必要はないと思う。なんなら、それくらいの完成度であった方が人間らしくていいんじゃないかな。
3日間という、極端に短い準備期間。歌とダンスをなんとか形にするだけでも難しい、過酷なスケジュール。
それに加えて、予想もしていなかった錚々たるメンツの審査員たち。
彼らの鋭い眼光を間近で受けながらパフォーマンスするとなると、そのプレッシャーは計り知れない者だろう。
まあ、要するに、峰間京が異常だったってこと。
ちょうど今ステージに立っている参加者も、最初こそ勢い良く踊り始めた。軽やかにステップを踏み、高いダンススキルを披露する。けれど後半になるにつれ、徐々に呼吸が乱れ、歌声が揺らいでくる。
『目の前に立ちはだかる High wallッ』
その声がついに裏返ってしまった瞬間、審査員席から音楽停止の合図が出された。
「これが君の覚悟だというのなら、2度とステージに立たない方がいい。以上」
巫静琉の静かな声が、冷たく響き渡る。
ステージ上に立つ参加者は、引き攣った表情のまま、ぎこちなく頭を下げる。
そして、耐えきれない感情を押し隠すかのように、俯いてステージを降りていった。
こんなふうに中断させられるパフォーマンスが続いたため、撮影スケジュールは大幅に巻きとなった。その結果、2日間を予定していた個人審査は1日目の午前中にして半分が終了していた。
そんな中で最後まで曲を通せたのは、京を含めほんの数人のみ。
当然、会場の空気は重苦しく沈んでいる。正直、こんな空気の中でパフォーマンスするのは、地獄以外のなんでもない。
私含め、出番を待つ参加者たちは、自分の公開処刑を今か今かと怯え待っていた。
そんな最悪な状況の中、次に披露する参加者の名前がプロジェクターに映し出される。
【冨上 栄輔 / EISUKE TOGAMI】
見慣れたその名前に、私は少し息を呑む。
栄輔……彼とは結局、初日以来会話していない。私が拒絶しているわけじゃなくて、彼の方が避けているんだ。ふと目が合っても、一瞬辛そうな表情を浮かべた後、すぐに逸らされる。
その反応を見るに、おそらく──いや、十中八九、天鷲翔による忠告があったんだろうな。おかげで、私も彼を突き放す罪悪感を感じなくて済んでいるから、別にいいんだけど。
「うっそ……」
表情を引き攣らせ、青ざめる栄輔の様子をカメラが捉えた。
可哀想に。
そんなスタジオ中の人々の声が聞こえてくるようだった。
明らかに追い詰められたような面持ちでステージへ向かう彼の姿には、自然と同情してしまう。
けれど、私の脳内には、初日に翔から聞いた言葉が引っかかっていた。
『栄輔って昔から、妬まれやすい節があってさ。大きな才能を持ちすぎて』
──大きな才能、ね。
少なくとも、今モニターに映っている彼には、そんなものを誇示できる余裕なんて無さそうだけど。
凄まじいプレッシャーに押しつぶされそうな、ごくごく平凡な少年。
そう形容するのが相応しいような彼の頼りない背中に、ヒヤヒヤしつつ心の中でエールを送る。
大失敗はしませんように。
ステージ中央に立ち、ポーズを取る栄輔。
少し感情移入してしまって、私の心臓も高鳴る。
しかし──歌い出しの一音で、それがまったくの杞憂であることが明らかになった。
けれど、審査が進むにつれ、最初にステージに立った峰間京の存在がどれだけ突出していたかが浮き彫りになってくる。
次々と披露されるパフォーマンス。しかし、その大半が余裕の感じられない粗削りなものだった。
パニックになって歌詞を飛ばす者、振りを途中で飛ばし立ち尽くす者、焦りからリズムを崩し、歌が不安定になる者──。
ミスを重ねた参加者たちは、審査員たちの判断でパフォーマンスの中止を命じられる。厳しい講評に泣きながらステージを降り、友だちに慰められる参加者という構図が多く見られた。
けど、多分そう落ち込む必要はないと思う。なんなら、それくらいの完成度であった方が人間らしくていいんじゃないかな。
3日間という、極端に短い準備期間。歌とダンスをなんとか形にするだけでも難しい、過酷なスケジュール。
それに加えて、予想もしていなかった錚々たるメンツの審査員たち。
彼らの鋭い眼光を間近で受けながらパフォーマンスするとなると、そのプレッシャーは計り知れない者だろう。
まあ、要するに、峰間京が異常だったってこと。
ちょうど今ステージに立っている参加者も、最初こそ勢い良く踊り始めた。軽やかにステップを踏み、高いダンススキルを披露する。けれど後半になるにつれ、徐々に呼吸が乱れ、歌声が揺らいでくる。
『目の前に立ちはだかる High wallッ』
その声がついに裏返ってしまった瞬間、審査員席から音楽停止の合図が出された。
「これが君の覚悟だというのなら、2度とステージに立たない方がいい。以上」
巫静琉の静かな声が、冷たく響き渡る。
ステージ上に立つ参加者は、引き攣った表情のまま、ぎこちなく頭を下げる。
そして、耐えきれない感情を押し隠すかのように、俯いてステージを降りていった。
こんなふうに中断させられるパフォーマンスが続いたため、撮影スケジュールは大幅に巻きとなった。その結果、2日間を予定していた個人審査は1日目の午前中にして半分が終了していた。
そんな中で最後まで曲を通せたのは、京を含めほんの数人のみ。
当然、会場の空気は重苦しく沈んでいる。正直、こんな空気の中でパフォーマンスするのは、地獄以外のなんでもない。
私含め、出番を待つ参加者たちは、自分の公開処刑を今か今かと怯え待っていた。
そんな最悪な状況の中、次に披露する参加者の名前がプロジェクターに映し出される。
【冨上 栄輔 / EISUKE TOGAMI】
見慣れたその名前に、私は少し息を呑む。
栄輔……彼とは結局、初日以来会話していない。私が拒絶しているわけじゃなくて、彼の方が避けているんだ。ふと目が合っても、一瞬辛そうな表情を浮かべた後、すぐに逸らされる。
その反応を見るに、おそらく──いや、十中八九、天鷲翔による忠告があったんだろうな。おかげで、私も彼を突き放す罪悪感を感じなくて済んでいるから、別にいいんだけど。
「うっそ……」
表情を引き攣らせ、青ざめる栄輔の様子をカメラが捉えた。
可哀想に。
そんなスタジオ中の人々の声が聞こえてくるようだった。
明らかに追い詰められたような面持ちでステージへ向かう彼の姿には、自然と同情してしまう。
けれど、私の脳内には、初日に翔から聞いた言葉が引っかかっていた。
『栄輔って昔から、妬まれやすい節があってさ。大きな才能を持ちすぎて』
──大きな才能、ね。
少なくとも、今モニターに映っている彼には、そんなものを誇示できる余裕なんて無さそうだけど。
凄まじいプレッシャーに押しつぶされそうな、ごくごく平凡な少年。
そう形容するのが相応しいような彼の頼りない背中に、ヒヤヒヤしつつ心の中でエールを送る。
大失敗はしませんように。
ステージ中央に立ち、ポーズを取る栄輔。
少し感情移入してしまって、私の心臓も高鳴る。
しかし──歌い出しの一音で、それがまったくの杞憂であることが明らかになった。