「お姉ちゃん、男の子のふりしてアイドルになるんだよね?ゆうさんから聞いたよ!すごい、少女まんがみたい!」
目をキラキラさせてそう言ってくる妹にシートベルトを締め直してやりながら、私は「そうだね〜」と目を細めて笑う。
少女漫画みたいな、そんな生ぬるいものじゃないけどね……といった愚痴が喉の奥まで出かかったけど、小学生相手に話すことでもないので言葉にはしない。
「それよりお姉ちゃん、ほんとに王子様みたいでかっこいいよ、けっこんしたい……」
隣からの熱視線が痛い。
まさか、妹にまでこんな視線を向けられることになるとは……。
なんだか気まずくてウィッグを取り去ると、妹から「なんで取るのー!」とブーイングが飛んでくる。
軽くため息を吐いたとき、ふと、ルームミラー越しに榛名優羽と視線が合った。
……相変わらず、憎たらしいほど綺麗な瞳からは、その感情は全く読めない。
とりあえず、何か話しておくかと思って、私はぽつりと口を開く。
「今日は真っ直ぐ家に帰れますよね?」
──家に帰れると思ったら、次々と色々なところに連行され、結局帰れなかったあの日の最悪な思い出。
今日もまたそうなったら困る、と思って、私は警戒心を滲ませて聞いてみる。
すると、ルームミラー越しの榛名優羽が、ふっと細まって。
「帰るよ。まぁ、途中でちょっと人を拾っていくけど」
前までと同じように、淡々とした口調で返された。
人を拾う……?
だから助手席が空けてあったのか、とちょっと納得しつつ、さらに聞く。
「一体誰を?」
すると、榛名優羽が答えるより先に、私の隣に座っていた琴乃が「こと、知ってる!」と手を挙げた。
「おにいちゃん!」
「正解」
琴乃の言葉に、優しい声音でそう答える榛名優羽。
「やったー!」と盛り上がる琴乃の横で、私は思わずあんぐりと口を開けた。
お、お兄ちゃん……?
なんの話?
話が見えず硬直する私に、隣の琴乃が得意げに説明し始める。
「じつはね、新しいお兄ちゃんがいるんだよー!たまにしかお家帰ってこないけど、すっごくいけめんだし優しいの!」
……何、その怪しい人。
思わず眉根を寄せていると、榛名優羽が淡々と補足説明を加えた。
「僕の実子だよ。だから、千歳たちにとっては義理の兄に当たるかな」
「は、子ども居たんですか……」
てっきり、こんな変人、独身貴族を貫いてるんだろうなって思ってた。
でもよくよく考えてみれば、榛名優羽はかなりの美形だし、お金持ちっぽいし、元妻の一人や二人くらいいてもおかしくないか……。
