順位発表終了後。

ずっと建物の中に篭っていたから分からなかったけど、今日は朝から激しい雨が降り続いていたらしい。

窓に流れる水滴、濡れたアスファルト。

そんな景色をぼーっと眺めながら、私はエマの事務所ロビーに一人で座っていた。

ソファの脇には、必要最低限の荷物を詰め込んだスーツケース。

片手には──ちょうど今、榛名優羽からのメッセージを受け取ったスマホのロック画面。

その通知には、たった一言。

『着いたよ』

私はため息を吐いて立ち上がると、スーツケースを片手に歩き始めた。

……さて、一体どうして、こんな状況になっているのかというと。

ことの発端は、順位発表後に告げられた、巫静琉の一言に遡る。

『今日から次の四次審査までの間、参加者の皆さんに二日間の外出許可を与えます』

サプライズで、参加者たちにささやかな休暇期間が用意されることとなったのだ。

その言葉に、ほとんどの参加者たちは喜んでいた。

都内に実家がある参加者たちは、実家に帰ると話していたり、仲の良い参加者同士で集まって遊びに行く計画を立てていたり。

……そんな中、私は特にその輪に加わらず、さっさと自室に帰った。

どうせ、家に帰ってもやることなんかないし、必要以上に他の参加者と仲を深めても計画に邪魔だし。

この二日間は、今まで通りダンスと歌の練習をして、スキルを磨くのに使おう──

なんて、そんなふうに思っていた矢先に。

ピコン、とスマホのロック画面に、通知が表示されたのだ。

そして、その送り主は──榛名優羽。

『二日間の休暇期間、家に戻ってきなさい』

そのメッセージを目にした瞬間、まず初めに脳内に思い浮かんだことは。

……なんで知ってるの?

の、一言だった。

参加者でさえ誰も知らなかったはずのサプライズ休暇を、まるで元から与えられるのが分かっていたみたいなタイミングでメッセージを送ってきた。

本当、気味悪いな……。

眉根を寄せつつ、彼についてちょっと記憶を掘り起こしてみる。

そういえばこの人、書類審査をすっ飛ばして私をオーディションに出演させるとか、エマプロの運営側と繋がってるとしか思えない行動がしばしば見受けられたような。

本当に何者なんだ……?

と、訝しく思いながらも、もちろん断るわけにはいかなくて。

受け入れた結果が、今の状況だ。