……終わった。
穏やかに微笑み、ちょっと首を傾げてこちらを見てくる篤彦。
その余裕が逆に怖くて、冷や汗が滲む。
と、そんな私とは対照的に、京は悪びれもせず肩をすくめた。
「無視して行けよ。今俺が全力で口説いてんの分かんない?」
「……もうちょい焦るかなんかしたら?おもんな」
「あわよくば見せつけたくてやってんだよ」
「炎上すんでほんまに」
焦る私をよそに、至っていつも通りの様子で軽口を叩き合う二人。
会話に入っていけず、ろくに言い訳もできないでいると──
不意に、篤彦がこちらに視線を寄越した。
乱れた前髪の下、少し揶揄うように細められた瞳。
思わずこくりと喉を鳴らす私に、彼は至っていつもの調子で聞いてくる。
「な、千歳くんってさ、やっぱそっちの気ぃあるタイプ?」
「まさか」
思わず食い気味に答えてしまった私に、「へぇ」と意味深に笑って頷く篤彦。
……本当に怖い、この人。
いつか自力で私の男装を暴いてきそうで、ずっと怯えてる。
っていうかこれ、悪ノリで絡まれてただけってきちんと言い訳すべき?
でも、ここで言い訳したらムキになってるみたいでさらに怪しまれる気もする……。
と、ひとりぐるぐる思考を巡らせる私に。
「けど俺に迫られたら弱いよね、ほんとかわいー」
なんて言いながら、ぐいっと肩を抱き寄せてくる京。
ちょっ、変なこと言わないで……!!
思わず顔を引き攣らせる私を前に、篤彦はくすくすと面白そうに笑う。
「ちなみにどこまでやったん?」
「寝た」
「語弊あるから絶対!」
変な噂が広まっては困るのですぐさま否定するけれど、二人ともけらけらと笑うだけで一切取り合ってくれてる気がしない。
ああ、やっぱりこの二人組に絡まれるのが一番精神すり減る……。
微かに痛くなってきたこめかみを押さえながら、私は焦りと苛立ちを吐き出すみたいにため息を吐いた。
そろそろ、私の恋愛嗜好について変な噂が流れた時の言い訳を考えておかなきゃな……。
なんて、そんなことを密かに心に決めながら、私は京と篤彦と一緒に収録スタジオへと向かうのだった。
