京は、軽く呼吸を整えると、一礼する。そして審査員席を見下ろし、余裕そうな微笑を浮かべた。
まだ夢から醒めきれていないような雰囲気が漂うが、余韻に浸る間はない。
ここからは、すぐに審査員の講評となる。
巫静琉は、鋭い視線を彼に向けたまま、しばらく口を開かなかった。
放送されるときのために間を取っているのだろう。
そして、ようやく口を開いたとき、その声音には感心の色が滲んでいた。
「さすが、若原清架の息子だね。視線の送り方や微笑み方が彼女そっくりで、色気がある」
──若原清架?
意外な人物の名前が出て、私は少し目を見開いた。
若原清架といえば、『魔性』と呼ばれた、色気のある大人気女優。
もともとは歌手志望だったのが、その圧倒的な感情表現の上手さを買われ女優業に転向した彼女。私の母親、桜井冬優の友人であり、良きライバルだったと聞いている。実際に会ったことはないからどんな人なのかはよく知らないけれど。
私は、壇上に立つ彼を改めて見つめる。
外見の印象は、あまり似ていない。
誘うような柔らかな印象を持つ、どちらかというと優しい顔立ちの彼女とは少し違った、猫のように涼やかで凛とした美貌。
けれど、確かに彼の表現には若原清架に影響されたものがあった。
生まれつき異性を惑わす術を知っているかのような、妖しい雰囲気。
どこか退屈そうで空虚な瞳。
そっか、彼も私と同じ、『2世芸能人』だったのね。意外な共通点だった。
それにしても、私たちのような『2世』にとって、『さすが〇〇の子ども』というような褒め方をされるのは複雑なもの。自分が必死に努力して出した結果であっても、『〇〇の子どもだから』と一蹴されたようで虚しいのだ。
「ありがとうございます」
お礼を言って頭を下げる京。その表情から、特に深い感情は読み取れない。
続けて、乙瀬凛也がマイクを握る。
「なんだろう……実力は申し分なく、さらに、観客の悦ぶツボを熟知しているな、という印象です。『これが好きなんでしょ?』と言わんばかりに、自分の魅力を最大限にぶつけノックアウトする、その技術の高さ。アイドルにとても大切な素質です」
彼の才能を分析し、巧みに言語化する凛也。会場中のあちこちで納得の頷きが見られる。
鼓朱那も続けて講評。
「えーっと、今書類見て驚いたんですが、16歳なんですね?!色気は人生経験の豊富さに比例すると言いますが、一体どういう人生を経験したらその年齢でここまでの色気が出せるのか、不思議で仕方ないです」
峰間京、16歳だったんだ。そうなると、私の1個上で高校1年生かな。
背もそこそこ高めだし、私より歳上だろうと思っていたけど、思ったより年齢が近くて驚く。
そして最後に、式町睦がマイクを握る。
「『魅せる』特化型の、麻薬のようなパフォーマンスだと感じました。人間を依存させるために生まれてきたかのような、そんな雰囲気で、目が離せなかったです。素晴らしい」
レジェンドに手放しで褒められるも、大して喜ぶ素振りも見せず淡々と一礼する京。
ただの女たらしだと見くびっていたからこそ、衝撃が大きかった。きっと彼も、このままいけばデビューは堅いだろう。
やはり、今後も彼には関わらないようにしないと。
私は密かにそう決意して、彼から目を逸らしたのだった。
まだ夢から醒めきれていないような雰囲気が漂うが、余韻に浸る間はない。
ここからは、すぐに審査員の講評となる。
巫静琉は、鋭い視線を彼に向けたまま、しばらく口を開かなかった。
放送されるときのために間を取っているのだろう。
そして、ようやく口を開いたとき、その声音には感心の色が滲んでいた。
「さすが、若原清架の息子だね。視線の送り方や微笑み方が彼女そっくりで、色気がある」
──若原清架?
意外な人物の名前が出て、私は少し目を見開いた。
若原清架といえば、『魔性』と呼ばれた、色気のある大人気女優。
もともとは歌手志望だったのが、その圧倒的な感情表現の上手さを買われ女優業に転向した彼女。私の母親、桜井冬優の友人であり、良きライバルだったと聞いている。実際に会ったことはないからどんな人なのかはよく知らないけれど。
私は、壇上に立つ彼を改めて見つめる。
外見の印象は、あまり似ていない。
誘うような柔らかな印象を持つ、どちらかというと優しい顔立ちの彼女とは少し違った、猫のように涼やかで凛とした美貌。
けれど、確かに彼の表現には若原清架に影響されたものがあった。
生まれつき異性を惑わす術を知っているかのような、妖しい雰囲気。
どこか退屈そうで空虚な瞳。
そっか、彼も私と同じ、『2世芸能人』だったのね。意外な共通点だった。
それにしても、私たちのような『2世』にとって、『さすが〇〇の子ども』というような褒め方をされるのは複雑なもの。自分が必死に努力して出した結果であっても、『〇〇の子どもだから』と一蹴されたようで虚しいのだ。
「ありがとうございます」
お礼を言って頭を下げる京。その表情から、特に深い感情は読み取れない。
続けて、乙瀬凛也がマイクを握る。
「なんだろう……実力は申し分なく、さらに、観客の悦ぶツボを熟知しているな、という印象です。『これが好きなんでしょ?』と言わんばかりに、自分の魅力を最大限にぶつけノックアウトする、その技術の高さ。アイドルにとても大切な素質です」
彼の才能を分析し、巧みに言語化する凛也。会場中のあちこちで納得の頷きが見られる。
鼓朱那も続けて講評。
「えーっと、今書類見て驚いたんですが、16歳なんですね?!色気は人生経験の豊富さに比例すると言いますが、一体どういう人生を経験したらその年齢でここまでの色気が出せるのか、不思議で仕方ないです」
峰間京、16歳だったんだ。そうなると、私の1個上で高校1年生かな。
背もそこそこ高めだし、私より歳上だろうと思っていたけど、思ったより年齢が近くて驚く。
そして最後に、式町睦がマイクを握る。
「『魅せる』特化型の、麻薬のようなパフォーマンスだと感じました。人間を依存させるために生まれてきたかのような、そんな雰囲気で、目が離せなかったです。素晴らしい」
レジェンドに手放しで褒められるも、大して喜ぶ素振りも見せず淡々と一礼する京。
ただの女たらしだと見くびっていたからこそ、衝撃が大きかった。きっと彼も、このままいけばデビューは堅いだろう。
やはり、今後も彼には関わらないようにしないと。
私は密かにそう決意して、彼から目を逸らしたのだった。
