さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「はやく控え室行こ」

一刻も早く仮眠を取りたい。

そう思って、歩いていた足を早めようとした途端。

一瞬、視界がぐにゃりと揺れた。

眠気と疲労がピークを越えて、足元が言うことをきかない。

──あ、やば。

崩れるように、体が前に傾く。

転ぶ──そう思った瞬間。

「っ……!」

ぐいっ!

力強く腕を引かれ、そのまましっかりと抱き留められた。

「……大丈夫?」

低く落ち着いた声が、耳元で響く。

京だった。

そのまま、ぎゅ、と私の身体を抱き寄せ、心配そうに覗き込んでくる。

「どした、眠い?」

「あ、ごめ……」

慌ててぐっと足に力を入れて、自力で立とうとするけど──やっぱり、上手く筋肉に力が入らない。

自分でも気づかないうちに、疲労が限界突破しちゃってるんだ。

「……やばそーだね。一旦控え室で寝よっか、肩貸すよ」

疲労で若干意識が鈍ってる中、甘く優しく声をかけられ、私は条件反射でお礼を言ってしまう。

「ありが、と……」

少し掠れた声でそう返すと、京の目が愛おしげに細められた。

「可愛い」

ふわっと笑いながら、甘やかすみたいに頭を撫でてくる京。

私が弱ってるからって、つけ込んでいちゃついてこないでよ……と内心ぼやく。

そんな彼を、呆気に取られたような表情で見つめ、顔を見合わせる明頼と雪斗。

「……なんだ今日の峰間、甘すぎんだろ。糖尿病なるわ」

「何があった……?」

そんな中、葵は何を考えているのか分からない表情で、黙ってこちらをじっと見つめていた。

けれど、やがて、ふいっと視線を逸らすと。

「……早く行こ」とだけ言って、静かに歩き出した。

その背中を追って、私たちも控え室へと向かう。

相変わらず、私の肩をしっかりと抱いたまま離そうとしない京。

そんな彼に、全体重を預けさせてもらいながら──私はなんとか、控え室に向かうのだった。