さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


戸惑って、思わず隣にいた葵と顔を見合わせる。

「何?」
「寝てるんじゃね?」
「えぇ」

適当なことを言う葵にちょっと呆れていると、数秒後、流石に痺れを切らしたのか巫静琉がマイクを取った。

「……凛也?一応台本だと次はお前の講評になっているが」

「……」

静琉の声に、乙瀬凛也はぎくり、と体を強張らせる。

数秒間、重苦しい沈黙の後。

凛也は、ロボットのようにぎこちない動作でマイクを取ると。

思いっきり気まずそうに視線を泳がせて絞り出した。

「ごめんなさい……ラスサビ前の京くんと千歳くんの衝撃で言おうとしてたこと全部ぶっ飛びました……」

「……」

その言葉に、苛立たしげに息を吐いて額を押さえる朱那さん。

……めちゃくちゃ怒鳴りたいけど、さっき自分もやらかしたからって葛藤してる顔だ。

会場のスタッフたちの間に押し殺したような笑いや、吹き出したのを誤魔化すような咳払いが響く。

冷や汗ダラダラで硬直する凛也に、巫静琉はしばらく呆気に取られたように黙り込んでいたが。

「……童貞じゃないんだから変に純粋ぶるのやめろ。クビだぞ」

めちゃくちゃさらりと放送禁止用語を投下した静琉に、壇上の葵が堪えきれず吹き出した。

「凛也さんさぁ……なんで審査員やってるんすか……?」
「スミマセンデシタ……」

後輩グループの葵にまで思いっきりバカにされ、これ以上ないほどに縮こまる凛也さん。

クスクスとあちこちから湧き上がる笑い声の中、巫静琉が呆れ混じりにため息を吐きつつ、再度マイクを取った。

「今の流れは全カットで。あとは俺がまとめる」

グシャリと髪をかき上げながら言う静琉は、今までの取っ付きにくい冷徹な雰囲気は無く。

むしろ、なんて言うんだろう……適当な授業で生徒に好かれてる先生、みたいな感じがあった。

ちょっと素出てるよね、これ。

いつもの外面しか知らなかった分、普段こんな感じなのか……とちょっと意外に思いつつ、私は彼の講評を待つ。

静琉はちょっと咳払いをした後──声音をいつもの冷徹なものに戻し、静かに話し始めた。

「えー……峰間京に関しては他の審査員が充分触れてくれたからもう良いとして、僕は違うメンバーにフォーカスを当てていこうかなと思います」

と、そんな言葉と共に。

スッと顔を上げ──彼の視線が捉えたのは。

「……榛名千歳」

私だった。