京は、その問いを受けて少し考え込むように俯いてから──ハンドマイクを唇に寄せる。
「もともと、小さい頃から歌手志望だったんですよね」
ぽつり、と思い出すようにそう話す京の横顔は、なんだか物憂げで、胸がきゅっと締め付けられる。
会場の誰もが彼の影のある表情に息を止める中──京は、ゆっくりと顔を上げて。
「……けど、これからはちゃんとアイドルとしてステージに立つつもりです」
そんな言葉と共に、どこか吹っ切れたように笑う京。
思わず、ドクン、と心臓が高鳴る。
……ああ。
峰間京は、もう完全に、自分の過去と決別することができたんだな。
なんとなく、そんなふうに直感して、思わず胸の奥にじんわりと暖かさが広がる。
「ボーカリストとして長くやってきましたが、ここまで魂を撃ち抜かれる歌声には滅多に出会いません。まさに、圧巻の一言です。 ただ──これほどの才能は、ときに孤独も背負う。その重さと、今後どう向き合っていくつもりですか?」
そう話す式町睦の言葉に、なんとなく、誰と重ねて言っているのか察してしまった。
──確かに、峰間京の驚異的な才能にはどこか彼と重なる部分がある。
見る者の感情を揺さぶり、時には狂わせてしまうほどの美。
それを背負っていくつもりはあるのか、その覚悟を問うているのだろう。
……そんな睦の言葉に、京は少しも躊躇うことなく、すぐに口を開いた。
「……今の僕には、迷わず背中を預けられる『仲間』がいます。 その存在がある限り──決して壊れることはないです」
そう、真っ直ぐに言い切ると。
ふ、と得意げに口角を上げこちらを見てくる京。
……そんなドヤ顔しなくても、分かってるから。
ちょっとむず痒いような気持ちになって、私はふいっと視線を逸らした。
その後、式町睦はそれぞれのメンバーの技術面にも軽く触れたが、いつもの容赦ない酷評が炸裂することはなく。
全体的にかなりの高評価で締め括られた。
……良かった。
一時はどうなることかと思ったけど、結果的に、あの式町睦をも認めるまでの完成度に押し上げられたんだ。
そう思うと、グループのために奔走したのは無駄じゃなかったんだな、とちょっと報われる。
そうして、睦がマイクを置いた後。
次は誰の講評か──とちょっと張り詰めた空気が流れるが。
「……」
「……」
残る巫静琉と乙瀬凛也は、お互い俯いたままマイクを取る気配はない。
……ん?何この空気?
