「あの……私、京くんのファンになってしまいました」

微かに震えた声、泣いた後みたいに赤く潤んだ目元。

……多分、めちゃくちゃ食らったんだろうな。

同じステージでパフォーマンスしていたらあまり分からないけれど、京が精神的に一皮剥けたことは事実だし、おそらくこのステージで完全に覚醒したんじゃないだろうか。

朱那さんは、興奮したみたいに早口で続けた。

「峰間京という人間の人生をまとめた一本の映画を見たような感覚です。最初から最後まで目が離せませんでした。鷹城葵にどれだけ食らいつくことができるのだろうかと懸念していたんですが、食らいつくどころか逆に食ってしまうようなパフォーマンス。ラスサビなんか、あの鷹城葵が空気でしたよ」

「言い過ぎだろあのババア」

マイクを手で覆ってボソッと悪態をつく葵。
自分もお世話になった恩師にババアとか言わない。

「あと、勝手に京くんのことはオールラウンダーだと思っていたんですが、今確認したらボーカルのみの登録だったんですね。なんていうか、もう全技能星5のスーパーレアキャラだったのが、ボーカル能力だけ星10とかになって、こう……パラメータがあるじゃないですか、そのボーカルの部分だけグイーンと?なんというか、突き抜けて……もはやウルトラスーパーレアキャラですか?!みたいな」

「……朱那さん、落ち着くまで一旦黙りましょうか」

ブレーキの壊れた車みたいに止まらない朱那さんを、呆れたように隣に座っていた式町睦が制する。

元スーパーアイドルの冷静な指摘に、顔を真っ赤にして「すみません……」と縮こまる朱那さん。

なんか……レッスンでは厳しい印象だった分、彼女が注意される側なのがなんか違和感。

親が会社の上司に怒られてるの見るみたいなむず痒さがあるな。

と、そんなことを思っているうちに、今度は式町睦の講評が始まる。

「……えー、峰間京」

その低い声ひとつで、会場の空気がぴしりと張り詰める。

これまで、他の審査員たちに比べて酷評率の高かった彼。

伝説のアイドルグループのメインボーカルとして日本芸能界を牽引してきた彼は、一体京のボーカルにどのような感想を抱いたのか。

息を詰めて言葉を待つ中──睦は、言葉を探すように数秒空けた後。

「……どうしてこんなに歌えるんですか?」

本気で戸惑っているような声音で、そんな問いを投げかけてきた。

ふっ、とその場の空気が弛緩する。

今回ばかりは、式町睦も酷評は封印らしい。