……アドリブ多すぎでしょ、峰間京。
私は、肩で息をしながら、横に立つ京を恨めしげに睨んだ。
ラスサビ前のブリッジ、私の顎持ち上げるとか今までの練習で一回もやったことなかったのに……。
表面上はなんとか取り繕ったけれど、内心では動揺し切って心臓バックバクだった。
一体何を考えてるんだか……。
しかも、その後もしれっとアドリブで三段ブースター入れてくるし。
無茶でしょって思ったのに、なぜか音程ビッタビタだし……そんな歌える人だったっけ、京って。
どちらかというと、表現力とセンスで押し切るオールラウンダー的なイメージだったのに。
そんなレッテルを破り捨てるかのように、とんでもないボーカルの実力を見せつけられ、感心通り越して恐怖すら覚える。
化け物が一皮剥けて、もっととんでもない化け物に進化したってことだろうな……。
と、そんなふうに思考を巡らせていると。
ふと、乱れた前髪をかき上げながら、京が私に視線を向けた。
当然ながら、ばっちり視線が合ってしまう。
あれ、見てた?とでもいうように甘やかに微笑む京に、ちょっと恥ずかしくなって目を逸らす。
……京からの甘ったるい視線は受け慣れていたはずなのに、なんだか今日は調子が狂う。
やっぱ、演技とかじゃなくて本心からの甘さになったせいだろうか。
なんて、そんなことを考えている間に。
審査員席の準備が整ったらしく、朱那さんが静かにマイクを取った。
──講評が始まる。
私はすぐに崩していた姿勢を直し、緊張の面持ちを作って、彼女からのコメントを待つ。
本当は、ほとんど徹夜明けからの本番を終えて今にも死にそうだけど、きちんとした態度を保ってないと簡単に炎上するだろうから。
朱那さんは、少し目を伏せたまま、数秒ほど言葉を探すように沈黙した後──
顔を上げ、真っ直ぐに京へ視線を向けた。
