その鮮烈さに、脳を殴られたような衝撃に襲われる。

この高さ……地声でいくつもり?

唖然としているうちに、音階がさらに上がって。

無茶だ、と思っているうちに、さらにもう一段階上がって。

息を呑んだ。

これは──

三段ブースター。

プロの歌手の中でも、並外れた歌唱力を持つ一握りしかできない、超高難度の歌唱テクニック。

それを──彼は、いとも簡単にやってのけてしまった。

今まで甘い微笑で隠し続けてきた激情が爆発するかのような、何かに対する命を懸けた覚悟のような。

並外れた声量のロングトーンが、会場をビリビリと震わせる。

──ああ。

一体何が、彼にそこまでの傷を負わせた?

このたった16歳の少年が、一体どれだけ辛い経験をすれば、ここまでの表現ができるの?

きっと、私には想像もできない、壮絶な何かが──彼を突き動かしている。

「っ……」

──頬に涙が伝っている、と気づいたのは数秒後だった。

どうしよう。

狂おしいほどに、彼の人生が知りたくて、苦しい。

アイドルって、なんだっけ。こんなにも、感情を揺さぶってくるようなものだったっけ。

甘いヴェールで覆われ、どこか掴めない印象だった彼はもうどこにもいない。

私のまったく知らないうちに。

彼は──『峰間京』という人間を剥き出しでぶつけるような、痛いほどに美しい自己表現を完成させてしまっていた。

その衝撃が身体中に染み付いて消えないままに、気づけばラスサビは終わって。

最後、消えゆくようなピアノと共に、音楽が締めくくられる。

……なんということだろう。

乱れた髪、呼吸、整った横顔。

彼の全てから、いまだに目が離せないでいる。

誰もが言葉を失って、夢と現実の狭間のような心地で、ステージをぼうっと見つめていた。

──峰間京。

並外れた表現力に加え、ビジュアル、ボーカル、ダンス全てにおいて参加者トップクラスの実力を誇る『オールラウンダー』。

……そんな私の中の彼に対する認識は、このステージで一気に塗り替えられてしまった。

一体、どうしてこんなに歌える?

涙でぐちゃぐちゃになった視界を拭いて、慌ててその場にあったメンバー表を引っ掴む。

峰間京……彼の、ポジション登録は、一体。

ペラペラと次々にページを捲り、ようやくたどり着いた彼のプロフィール。

そこに書かれていたのは──

『基本ポジション登録 : ボーカル』

……はは、と思わず乾いた笑いが溢れる。

「ボーカル……特化型……?」

静寂の中、私の驚嘆の声がぽつりと溢れた。

今回のオーディション、本当に……本当に、とんでもないグループが生まれるかもしれない。

そんな恐れに近い期待と共に、私は震える手で、講評のためにマイクを取ったのだった。