サビが終わると、豪華だった音調がふっと静まり返り──
カシャン……ッ!
微かにグラスの割れる音が、曲調変化の合図となる。
ここからは、いわゆる『落ちサビ』パート。
くぐもるような低音の中、チッ、チッ、という金属を指先で弾くような音が重なり。
そこに、柔らかなウッドベースと、繊細なスネアブラシのリズムが絡みつく。
静まり返った曲調の中、ターンでのポジション移動で、センターに進み出たのは榛名千歳。
『壊されて堕ちたっていいから ただそばにいて』
甘く、それでいてどこか退廃的な視線。
静かな曲調だからこそ際立つ、悲痛な色の乗った透明なボーカル。
息を詰めてステージを見つめていると、そんな千歳に背中を合わせ──峰間京が、スッとマイクを持ち上げた。
『時間を止めて このままずっと』
歌いながら、榛名千歳の頬をなぞって、優しく顎を持ち上げる。
まるで、壊れ物を扱うように。
まるで、自分だけの宝物を愛でるように。
その甘く憂いにかき濡れた瞳が、千歳をゆっくりと見つめた。
その繊細で背徳的な仕草から溢れ出す、息の止まるような魅力。
「うおっ……」
隣に座っていた凛也が動揺したように声を漏らし、慌てて口を押さえた。
その初心な反応に内心ちょっと眉を顰めつつ、それでも凛也の反応に共感してしまう自分もいた。
思いがけず動揺してしまうほどに、二人の間の空気は排他的で──
致命的に、美しい。
するり、と千歳から手を離すと、そのまま代わってステージセンターに立つ京。
そして──サビ前、高音ボーカルのブリッジ。
『ぬるい善意や慰めはいらない ただ Let me love you, forever』
落ちサビで儚げだった歌声が、徐々に芯を持って。
そのまま、ラスサビの盛り上がりに向けて力強く伸びていく。
──待って。
まさか。
その場にいる誰もが息を呑んで、身を乗り出した。
私も慌てて、イヤモニをグッと耳に押し付ける。
ラスサビ前、盛り上がりの最高潮。
案の定、続いたのは──
爆発的なロングトーンだった。
