「……条件つきなら」
小さく溢すと、ぴく、と京の肩が微かに反応した。
顔を上げる京に、私は真っ直ぐに視線を合わせる。
「私が、そうやって京と向き合う代わりに──京も、自分の過去と向き合ってほしい」
「……!」
京の睫毛が、微かに揺れる。
……正直、今のズタボロ状態の彼に、厳しい言葉をぶつけるのは酷なことだと思う。
けど──これは、決して逃げちゃいけないことだと思うから。
「……これまで京が、どれだけの子に無責任に期待を持たせて、傷つけたのか。それをちゃんと思い出してあげて」
少しだけ責めるような、強い口調になってしまうのに申し訳なく思いつつ。
私は京から目を逸らさないで、淡々と言葉を重ねる。
「……特に、小夜ちゃんのことは、ちゃんと謝ってほしい」
その名前を口にした瞬間、京は気まずげに目を伏せた。
好かれていないと知りながら、健気に京との約束を信じて、尽くしてきた小夜ちゃん。
その末に、あんな形で傷つけられてしまった彼女の気持ちを、このまま置き去りにしようとするのなら──私は、絶対に京のことを許せないから。
きちんと、自分の過ちを見つめて。
もう二度と他人を利用したりなんかしない、って誓うんだったら──私も、彼の寂しさを埋めるために、少しくらい縛られてもいい。
しばらく、京は俯いたまま沈黙していた。
けれど、やがて──
「……分かった」
絞り出すように、静かな声が落ちた。
……ああ。
もう、昔みたいに開き直ったり、ふてぶてしく笑ったりしない。
ちゃんと、向き合おうとしてる。
──大丈夫そう、かな。
私は、静かに息を吐いて安堵して。
……ついでに、言い忘れていた大事なことを、ぼそっと付け足しておいた。
「ちなみに今、小夜ちゃんの中では、京が小夜ちゃんのこと溺愛してることになってるけど」
──数秒間、沈黙の後。
「……え、お前何言ったの?」
……誤魔化せなかったか。
この雰囲気のまま行けば、「分かった」って素直に頷いてくれるかなって思ったんだけど……
流石に見逃されなかったらしい。
でも、正直私別にそんな悪くないし……不可抗力だったし。
焦ったように表情を引き攣らせる京に、私はちょっと開き直って肩をすくめる。
「……必要悪です」
「ちょっと」
「もう寝る」
「おい、逃げんな」
ぐい、と腕を掴まれ、無理やりに京の方に引き寄せられる。
「っ……!」
不意打ちの力に体勢を崩してしまったことで──私が京に抱きつくみたいな形になってしまって。
同時に、ばちっと視線が交錯。
──数秒間。
互いに何も言わず、見つめ合ったまま、硬直する。
