……泣き腫らしたからだろうか、いつもより少し疲れたような表情。

それでも、やっぱり綺麗な顔だった。

綺麗な輪郭、涼やかな目元、絹みたいにサラサラで艶やかな髪。
疲労感が逆に物憂げな雰囲気すら滲ませるような、欠点の無い整いすぎた顔立ち。

……この容姿が無ければ、京の人生は、少しでも変わっていたのかな。

そう考えると、極端に綺麗に生まれることって、恩恵なんかじゃなくて、ほとんど呪いだ。

京は、しばらく黙ったままじっと私の顔を見ていたけれど。

やがて、ふ、とゆるく目を細め──私の顎に指を添えた。

そして。


「──キスしよ」


……え。


思わず息を呑んで硬直していると、それをOKサインだと受け取られてしまったのか。

京は私を抱き寄せると──そのまま、唇を重ねた。

今までみたいに、強引なキスじゃない。

押し付けるような熱も、支配の欲望も滲んでいない。

ただ、優しくて。

蜂蜜を溶かしたみたいに甘い──ひたすらに、愛情を伝えるための口付け。

触れて、離れて。

また、そっと重なる。

指先が、優しく私の頬をなぞるたびに、体の奥がじんわりと熱くなる。

やがて──ようやく、唇が離れた時。

これまではどこか遠くを見ているみたいだった彼の空虚な瞳は、今はただ、真っ直ぐに『私』のことを映していた。

「……千歳」

軽く呼びかけて、ふわ、と優しく私の頭を撫でる。

「俺、ちゃんとお前のこと惚れさせるために頑張るけど──無理に惚れろ、とは言わないし、責任取れとかもう言わないから」

さら、と慈しむように髪に指を通しながら話す京は、どこか切なげな表情をしていて。

胸の奥で、言葉にならない感情がじくりと疼いた。

──そんなこと、本当は思ってないくせに。

本当はめちゃくちゃ不安だし、惚れてほしいし、責任取ってほしいくせに。

彼なりに、私への負担を考えて、一歩引いてくれてるんだ。

「……でも、その代わり、さ」

一瞬、言い淀んで。

そのまま、私の肩にトサッと頭を埋める。


「──ほかの誰とも、付き合わないで」


……絞り出すような、懇願するような、その言葉に。

きゅっ、と胸の奥がキツく締め付けられた。

肩に置かれた頭の重みが、心にのしかかるみたいに痛い。


──『チャンスだけは、奪わないで』。


そんな声にならない声が、彼の体温から伝わってくるような気がして。

その切羽詰まったような願いを突っぱねられるほど、私は冷たくなれなかった。

……寄り添ってあげたい。

けど、だからこそ、ちゃんと伝えないといけない。

彼と向き合うために、私がどうしても譲れないことを。