「……って、感じかな」

夜が明け始めた、寮の一室。
ほんのり青くなり始めた窓の外に目をやりながら、私は一通りの出来事を──簡潔に、そして正直に話し終えた。

私の声が途切れたことで、沈黙が降りる。

時計の針がカチ、カチとやけに大きく響いて。
空調の駆動音が、どこか遠くでくぐもるように鳴っていた。

静けさの中、ちら、と隣に目をやる。

同じベッドの端に腰掛けた京は、さっきからずっと項垂れたまま。

葵の車の中でずっと泣いていたせいで疲れたのか、顔を上げる気力すら残っていないみたいだった。

まだ、あんまり落ち着けてない感じかな……。

と、少し心配に思っていると。

「……ないの」

ボソ、と呟かれた微かな声。

「ん?」

慌てて聞き返した私に、京は──ゆっくりと、顔を上げた。

乱れた前髪の奥。

泣き腫らしたような目が、真っ直ぐに私を見据える。

「……バカじゃないの?お前」

絞り出すような、低い声。

思わずドキ、と心臓が鳴る。

『お節介』
『何も知らないくせに』

また、そんな言葉を投げつけられるかと思った。

今回、私のやったことに間違いはないと思っていたけど──これもやっぱり、ありがた迷惑だったのかな。

そんな不安が湧き上がって、思わず目を伏せた──そのとき。


──ぐいっ!


突然、二の腕を強く引かれて──

気づけば、京の胸の中に抱きすくめられていた。


「え──」


驚く間もなく、ぴたりと密着する身体。


──ドクン、ドクン、ドクン。


顔の埋まる位置から、彼の心臓の音がダイレクトに響いてくる。


「なんで……俺なんかのために、そんな危ないことばっかしてんの……?」


耳元、すれすれ。

息のかかる位置から、掠れた声が落ちる。

その声に滲んでいるのは、私に対する怒りというよりも──

震えと、痛みを孕んだ自己嫌悪。

……自分の行動が正しくないことだって、最初からきちんと分かってたんだろう。

けど、そうせざるを得なかった。

そうせざるを得ない状況に、追い込まれてしまっていたんだ。

──辛かっただろうな。

少しでも安心させてあげたくなってしまって、恐る恐る、京の背中に腕を回して。

ぎこちなく、トン、トン、と彼の背中を叩くと、抱きしめる力がさらに強くなった。

──きっと、今までの人生でずっと、心から頼れる人がいなかった分、その反動がきてるんだ。

温室育ちの私なんかが、彼の苦しみを完全に理解できているとは思えないけれど。

それでも、こうやってできる限りは寄り添ってあげたいな。


そうしたまましばらく、私は京が落ち着くまで待った。

徐々に、京の心臓の音、呼吸のリズムが戻っていくのがわかる。

……やがて、ふわ、と腕を緩める京。

身体が離れ、ようやく視線が交錯する。