さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


頬にかかる息が、荒い。

「ずっと思っていたんだけど……君の唇、すごく綺麗だよ」

つう、と唇を撫でられて、ゾクゾクッと背筋を駆け上がる恐怖感。

っ、無理だ、気持ち悪い──……!

思わず、反射的に顔を背けた、その隙をつくように。

──ぬるり、と首筋に舌が這う感覚。

「っ……?!」

──強烈な吐き気すら覚えるほどの不快感を覚え、身を捩って逃げ出そうとするけれど。

柔らかいソファに身を押し付けられて、完全に逃げ場はない。

呼吸が、乱れる。心臓が痛いくらいに早鐘を打って、視界が滲む。

泣きそうだ。

お願いだから、早く寝て……!

と、そう強く願って、キツく目を瞑った──その時だった。

「……く、う……」

ぐらり。

明石の身体が、まるで糸の切れた操り人形のように傾いて。

力が抜けたまま──どさっ、と上から倒れ込んできた。

「ぐっ……!」

押し潰すようにのしかかる重みに、思わず苦悶の声が漏れる。

顔を歪めながら、恐る恐る目を開けると、すぐ目の前に、明石の髪と頬があって──

ぞわり、と全身に悪寒が走る。

……ね、寝た……?

まだ微かに震える指先で、そっと彼の髪をつまみ、キツめに引っ張ってみる。

反応は、ない。

代わりに、鈍い寝息だけが耳元で響いていた。

「……っ……」

寝て、る。

これで、もう強引に迫られる心配はないんだ。

その実感がじわじわと押し寄せてくると──

震えるほどの安堵と共に、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。

「はっ……ぁ、……」

声にならない嗚咽が漏れる。

死ぬかと思った。

本当に、このまま何もできずに──踏みにじられてしまうのかと。

言葉にならないほどの安堵感に、気が抜けそうになるのと同時に。

──京は、この体験を最後までさせられたんだ、という実感が湧いてきて。

ぎゅう、と胸が強く締め付けられる。

──怖かっただろうな。

哀しみと、やるせなさと、怒りとがごちゃ混ぜになって──再度、私を奮い立たせた。