さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


……!

バレてない!

その途端、全身に張り詰めていた緊張がふっと弛緩し、思わず表情が緩みそうになる。

自分で仕込んだ睡眠薬自分で飲んじゃって、バカだなぁ……。

「……やっぱり美味しいよ、これ。君ももっと飲んだら?」

「あ、はい……」

彼の言葉に軽く頷きつつ、私は目の前のグラスをそっと持ち上げる。

今度は、ちょっとだけ口に含んで飲み込む。

ほろ苦さと酸味が舌の上で弾ける、初めて飲むお酒の味。

「……こうやって、色んな人と会ってるんですか?」

テーブルの上にグラスを置いて、何気なく聞いてみる。

他愛の無い会話で、薬が回るまでの時間を稼ごうと思った。

「まあね……若い子の夢を応援したくて」

優しげな口ぶりで、人の良さを装っているような響き。

けれど──そんなこと、微塵も思っていないのは知ってる。

この男が、自分の欲望のために、『成功』を売るような人間だってことは、もう分かってる。

「そう、色んな子に会ってきたさ……目を見張るほどに美しい少年たちにも、山ほどね」

と、そこで。

明石の視線が、ゆったりとこちらに向いた。

その瞬間──言葉にできないほどの悪寒が、ぞくり、と全身を駆け巡る。

目の焦点が、合っていない。

薬が──回っているんだ。

そう理解するのと、ほとんど同時に。

──ドンッ!

背中が、ソファに沈み込む感触。

「っ……!」

慌てて起きあがろうとするのを阻止するように、両肩を掴まれ、ソファの上に押しつけられる。

その上から、のしかかるように覆い被さる明石の身体。

大人の男の力強さを前に、私は身じろぎすらできなかった。

──や、ばい。

やばいやばいやばいやばい。

完全に、失念してた。

一番危ないのは、睡眠薬を飲んでから薬が回って眠るまでの間──


理性が本能を抑えきれなくなるこの時間だ、ってこと。