「でも……僕、未成年で。飲んだらいけないので……」
断る言葉を慎重に選びながら、少し怯えたように言ってみるけど。
「大丈夫、大丈夫。芸能界でやっていくんだったら、むしろ練習しておかないといけないからね」
そんな言葉で、半ば強引に勧められて。
その食い下がり方に、ああ、絶対これ混ぜてるな、って確信する。
本当は、口すらつけたくない。
けれど──ここで断りすぎると、逆に警戒される可能性もある。
だったら。
私は納得したように頷くと──そっと唇をグラスの縁に寄せて。
飲み込まず、舌先にだけ触れさせる。
こくり、と喉だけ鳴らして、飲み込んだふり。
「……おいしいです」
そう言ってちょっと微笑むと、明石は満足そうに頷いた。
──なんとか、誤魔化せたっぽい。
とはいえ、いつまでもこの方法で乗り切るわけには行かないよな……。
私は、ちら、とガラスのテーブルの上に並んだ二つのグラスに視線を走らせる。
シャンパンは、同じボトルから注がれた。
そして、明石は自分のグラスのシャンパンは全く問題なさそうに飲んでいる。
……ってことは、私のグラスの方だけに細工がされているんだろう。
あらかじめ、薄く睡眠薬が注がれていた、とか。
それなら。
私はちょっと気合を入れ直すように軽くため息を吐くと──
「……あ、明石さん」
小さく首を傾げて、上目遣いで彼の顔を覗き込む。
「目元に何か。まつげのところ……」
「え?」
「えっと、取ってあげますね。少し、目を閉じてもらえますか?」
ちょっと躊躇いがちな口調で、油断させて。
カバンに隠していたハンカチをそっと取り出して──ふわ、と彼の視界を覆うように目元に添えた。
その一瞬、彼の視界は閉ざされる。
──今。
私は音を立てないように、素早く二つのグラスをすり替えた。
「……これでよし」
ふわりとハンカチを外すと、明石はちょっと瞬きをして、にやりと微笑んだ。
「……まるで本物の恋人のような気遣いだね」
「え……そう、ですか?」
ちょっと照れたようにはにかみながらも、手のひらにはじんわりと汗が滲んでいた。
耳の奥で、やけにうるさく響く鼓動。
バレるだろうか。
音では気づかれなかったけれど──位置で、疑念を持たれたりしないだろうか。
湧き上がる不安の中、表情を崩さないように神経を張り詰めながら、私は明石の動きを待つ。
すると。
明石は、何事もなかったかのように自分の前にあったグラスを手にして──
そのまま、ぐいっと流し込んだ。
