その後、私が連れてこられたのはそのホテルの一室だった。
息苦しいほどに整った雰囲気の、白とグレーを基調とした室内。
中心に置かれているのは、シルクのような光沢のあるキングサイズのベッド。
壁際の巨大なテレビ、ソファに、ガラス製のローテーブル。
その上には、冷えたままのシャンパンボトルと、二つのグラスが置かれていた。
「……眺めのいい部屋だろう。ここのスイートルームがお気に入りなんだ」
気さくな風を装って話しかけてくる明石。
けれど──その目線は、依然として私の鎖骨あたりを品定めするみたいに這ったまま。
あからさますぎる……気付いてないとでも思ってるんだろうか。
内心不快に思いつつも、私は長年蓄積してきた演技スキルで押し隠し、静かに笑う。
「すごく綺麗ですね」
そんな私の反応に、明石はスッと目を細めた。
「……ふぅん。こういう場所には……慣れてるのかな?」
その声音に、少し不機嫌さが滲んでいる気がして。
──初々しいタイプの方が好みなのか。
即座にそう判断して、軌道修正。
少し頬を染めるようにして、躊躇いがちに視線を落とす。
「まさか……こんなの初めてだし、すごく緊張してます……」
いじらしく声を震わせてみれば、明石の視線に確かに熱がこもった。
……この路線で正解らしい。
その反応の分かりやすさに、密かに安堵する。
そんな私の内心なんて知らずに、明石はあくまで『紳士』を装って私を手招いた。
「まずは、緊張をほぐすために乾杯でもしようか」
言いながら、テーブルの上のシャンパンボトルに手を伸ばして。
慣れた手つきでボトルを開け、グラスに黄金色の液体を注いだ。
私は、その一連の動きをじっと見つめる。
──これ、多分、飲んじゃいけないやつだ。
今日、行く前に葵から聞いた情報を思い出す。
『あいつ、酒に睡眠薬仕込んでくるから、気をつけな。寝てるとこをぐちゃぐちゃにしといて”嫌がってなかった”とか言い張ってる、そういう奴だから』
うっかり睡眠薬なんか盛られてしまえば、一巻の終わり。
ここからは慎重に行かないと、と思うほど、心臓がドクドクと高鳴って呼吸が浅くなりそうになる。
──落ち着こう、私。
慎重に行かないといけない時こそ、冷静でいるべき。
そう思って、意識的に呼吸をゆっくりにする私に、明石が向き直る。
「これね、少し甘めなんだ。君みたいに初めての子でも飲みやすいと思うよ」
そう言って差し出されるグラスを、おずおずと受け取りつつ。
私は遠慮がちに、上目遣いで明石を見る。
