ガラス張りの窓の外に、夕焼けが滲んでいく。

琥珀色の雨粒のようなシャンデリアの光が天井から落ちて、アイボリートーンの代理石に柔らかく反射する。

ここは──都心の高級ホテルのラウンジ。

明石兼正に指定された、おそらくセレブ御用達の空間だ。

慣れない空気の中、私は少し緊張しつつ、ひとりソファに腰を沈めていた。

バッグから手鏡を取り出し、自分の姿を映す。

前髪はノーセット風に下ろして、目元には薄いメイクを施してほんのり潤んだように見せる。

そして、襟元が緩く落ちるアイボリーニットは、華奢な首筋と鎖骨をわざと見せられるよう計算した選んだもの。

まだ若干幼さの残る雰囲気はあるけれど──

今から会う男には、これが絶好の『餌』になるのだ。

──正直、怖くないと言えば嘘になる。

けれど。

私は、ポケットの中に隠した小さな端末にそっと手を触れた。

『──キッズ用GPS見守り端末?』

『そう。俺が子役時代に親から持たされてたやつ。設定いじって、俺と繋がるようにしてあるから』

正直、渡された時はなんだか子供扱いされてるみたいで気に食わなかったけれど。

不思議と、今になってみるとこれが命綱のように思えて安心できる。

ボタンひとつで、SOSと位置通知ができるんだから意外と優れものだ。

──まぁ、とはいえ、これがあるからって気を抜くつもりは微塵もないけれど。

だって、ここでしくじってしまえば──私自身にも致命的な害が及ぶ。

明石兼正の手によって、男装が世間にバレてしまうかもしれないのだ。

──絶対に気は抜けない。

と、自分に気合を入れ直すように、ひとつ息を吐いた──その時。