「前から思ってたけど、千歳って、割と業界詳しいよね。芸能一家?」
「まぁ、そんなとこです」
鋭い指摘を、曖昧に笑って濁す。
別に話しても良かったけれど、色々と突っ込んで聞かれるのは面倒だったから。
そんな私の雰囲気を察したのか、葵もそれ以上踏み込んでくることはなく。
代わりに、さらっと別の話題を提供してくれる。
「明石監督の作品で、何か覚えてるタイトルとかある?」
「……題名だけなら、何作か。『雨がやんだ日』とか『白昼のブルー』とか」
と、そう口にした瞬間。
車内の空気が、ふっと静かに冷えた。
「……そう。それ」
ハンドルを片手で握ったまま、冷たく吐き捨てる葵。
「……それ?」
「千歳、ちょっと調べてみなよ。若原清架が二年前に主演で『再ブレイク』した作品、なんだったか」
言われるままに、スマホを取り出して検索バーに『若原清架 再ブレイク』と打ち込む。
すぐに、関連情報の一番上に表示されたのは──
『白昼のブルー - 監督:明石兼正』
その画面を前に、指先が止まり、息が詰まった。
……なるほど。
つまり──
「清架が、峰間京で買った再ブレイク。明石兼正はおそらくその『取引相手』のひとりだ。彼もペドで業界じゃ有名だし、ほぼ確実に噛んでるんじゃないかな」
淡々とした葵の言葉に、私は思わず感心してしまった。
まさか、鷹城葵が京のためにそこまで調べていたとは……。
この人、普段は皮肉屋だし、京を煽ることに命かけてるし、信じられないくらい生意気だけど──なんだかんだ、誰よりも京のことを気にしている気がする。
そう考えると、自然と胸の奥が暖かくなって、微かに口元が綻んでしまった。
