「へ……?」
呆気に取られたように固まる清架。
その腕に、無慈悲に手錠がかけられる。
「えっ、ちょ、ちょっと待って、なんでこんなっ……!ちょっと、ねえ、鷹城葵っ……?!」
連行される途中、その場にいた鷹城葵に説明を求めるも。
「ばーか」
蔑むように笑って、冷たく言い放つ葵。
その言葉が、最後の引導となって。
──もはや、ここに若原清架の味方は誰もいなかった。
あまりにも、無様な幕引き。
ヒステリックな叫びは、連行されるにつれて遠ざかっていく。
やがて、完全にその声が聞こえなくなっても、俺はまだ状況を処理できずに呆然としていた。
現実感が伴わず、硬直して動けない。
そんな俺の前に、再び片膝をつき、視線を合わせてくる千歳。
「……勝手なことしてごめん、京」
胸の奥にじんわりと染み込んでくるみたいな、優しい声と眼差し。
──初めて、だった。
誰かの瞳に、ちゃんと自分の姿が映っていると感じたのは。
欲望も打算もなく、真っ直ぐに俺を見てくれているって、そう思えたのは。
「……なんで、警察」
掠れた声で、かろうじてそんな疑問をこぼす。
若原清架を、自分の手で壊すことを何度も想像した。
けれど、結局できなかった──物理的にも、社会的にも。
憎しみより先に、記憶が邪魔をしたのだ。
どれだけ最低でクズでも──清架は、俺が本気で愛した最初の人だったから。
でも──
千歳は、それを代わりにやってくれた。
正面から、何の迷いもなく、俺の呪いを断ち切ってくれた。
「……全部、話すから」
千歳がそう言って、静かに俺の頭を撫でた。
その瞬間、止まっていたはずの感情が、ぽたりと落ちた。
一滴の涙が、決壊の合図で。
堰を切ったように、熱が頬を伝って零れ落ちていく。
今までひた隠しにしてきた弱さも、汚さも、全部を曝け出して。
もう二度と戻らないと思っていた心が、彼女の声で、優しさで、静かに動き始める。
……ああ、この恋は、呪いなんかじゃない。
それは、真っ暗だった俺の人生に初めて差し込んだ──本当の、救いの光だ。
