そんな、もはや復讐なのか執着なのかすら分からない終着点。
それを目の前に突きつけられ──清架は、しばらく何も言わなかった。
その場に崩れたまま、ただ黙って、床に置かれた小瓶を見ていた。
どれほどの時間が流れたのか、分からない。
そう思わせるほどに長い沈黙のあと──ようやく。
小さく震える声が、漏れた。
「……愛せるわけ、無いでしょ?」
その答えに、ほんの少しだけ、目を細めた。
期待なんてしていなかった。
けど、それでもほんの一瞬、『もしかしたら』と思ってしまった自分を、苦笑と共に否定する。
ゆっくりと、彼女は床の毒瓶に手を伸ばし──震える指で、それを掴む。
その指先が、小さく震えながらも、確かに俺の顎に触れた。
……どうせ、俺の中身はとっくに死んでる。
生きていたって、誰にも必要とされない、愛されない。
ただ誰かを傷つけるだけの、有害な毒。
──だったら。
きっと、こうやって終わりにするのが、正解なのだ。
若原清架、お前も俺も──絶対に、幸せになんてなっちゃいけない存在なのだから。
瓶の液体が、わずかに傾く。
その重さが唇に触れそうになった──その、刹那だった。
ガシャン──ッ!!
瓶が、弾かれるように飛んで。
リビングの床に叩きつけられ、四方に砕け散る。
月明かりに照らされ、液体とガラス片が星屑のように煌めいて。
目の前で起こったその光景ひとつひとつが、ひどく遅く、スローモーションに見えた。
一瞬、何が起こったのか分からず、呆然として硬直する。
数秒後──
「京」
聞き慣れた声に、見上げると。
そこに立っていたのは──榛名千歳だった。
月の光が、乱れた色素の薄い髪を明るく照らし、その現実離れして整った横顔を柔らかく映し出す。
──なんで。
彼──いや、彼女は、息を切らしながら、俺の目の前に片膝をついた。
そして、そっと。
壊れかけた何かに触るかのように、俺の肩に手を置く。
「……帰ろう」
震え混じりの、か細い声。
その一言に、心臓の奥が、ずくん、と疼いて、視界が揺らいだ。
……どこへ。
どこへ、帰るっていうんだよ。
俺に帰る場所なんて──もう、どこにも無いのに。
「……邪魔、すんなよ」
そう冷たく放ったはずの言葉は、自分でも驚くほど震えていて。
そんな俺を前にして、千歳はちょっと辛そうに眉を下げた。
そして、ちょっと躊躇うように、目を伏せた後──
──ぐいっ。
優しく身体を引き寄せられ、そのまま──ふわり、と抱きしめられていた。
