「──分かってないかもしれないけどさ、お前に捨てられた時、何もかもが崩れて、俺は確実に一回死んだ。お前がやったことは、そういうことなの。分かる?」

諭すようにそう言うと、血相を変え、ヒステリックに叫んでくる清架。

「うっ、自惚れないでよ……!元々、あんたなんて売られた身のくせに。私がせっかく、その人生に価値を持たせてやったっていうのに……!」

そのことばに、心臓がズン、と重くなる。

……そうだ。

俺の人生に価値なんかない。最初の親に売られた時点で、俺には商品的な価値しか残らなかった。

買って、壊れたら、捨てられる。

そういう商品なのだ。

「……そう、持ち主であるお前を失った今、俺の人生にもう価値なんて無いね。だから」

そこで言葉を切ると、俺は薄く微笑んだ。

「……今ここで、俺を愛すか、殺すか。選んで?」

空気が、凍りつく。

窓の隙間から吹き込む夜風が、さら、と吹き抜けていった。

「お前が俺を捨てたままでいるなら、俺はきっと一生お前に執着する。他人を巻き込んで壊すし、お前のことを殺そうとするかもしれない」

低く、静かに、けれどはっきりと。

「──捨てるなら、責任取って、その手で終わらせろ」

そう告げると、清架の瞳孔が大きく揺らいだ。


どうするのが一番重い『復讐』になるのか。

捨てられたあの日から、ずっと考えてきたその問い。

考えに考えた結果──辿り着いた結論は。


清架に、俺を殺させることだった。


彼女が俺のことを『殺した』のだという実感を、無理矢理にでも押し付けて。

誰にも許されることなく、俺の死に様を記憶に刻んで、自分の罪を思い出して。

そうして、その罪を一生背負って生きていけばいい。


そうすれば、きっと俺は、清架のなかに永遠に『居続ける』ことができるから。


このまま存在を忘れられるくらいなら──


この命を捨ててでも、お前の心の底に沈澱する罪の記憶になってやる。