「被害者ヅラして慰められたいの?あーはいはい、かわいそーですねー」
口元に手を添え、芝居がかった口調で言う清架に「どうも」と返す。
すると、そんな俺を前に、清架は痺れを切らしたように舌打ちしてきた。
「……って、普通に今の被害者は私でしょ。急に眠らされて、こんな場所に拉致られてさ。目的は何なわけ?」
キッ、と睨み上げてくる清架。
……本当、相変わらずだな。
俺はその場にしゃがみ込むと、彼女と真っ直ぐ視線を合わせた。
「年少から出て、帰ってきた時──もぬけの殻になったこの家を見て、俺がどう思ったか分かる?」
「知らなーい、興味ないし。ってか、捨てられたんなら弁えて居なくなってよ。一人でも生きていけんでしょ?もう『おとな』なんだから」
「……」
俺は何も言わず、懐から一本の瓶を取り出した。
小夜からもらった薬は二つ。一つは、さっきのドライバーに報酬として渡した媚薬。
そして、もう一つは──致死性の毒薬。
琥珀色の瓶の中に、カランと入った一錠の錠剤。
その中にペットボトルの水を注ぐと、シュワ……という微かな泡立ちと共に、水が白濁した。
「……何それ」
「さっき来る途中に買った水」
「違う……!そっちの錠剤に決まってんでしょ!」
「あーぁ、これ?」
わざと軽い口調を装って、カツン、と瓶を床に置いた。
「毒だよ」
その言葉に、流石に危機感を感じたのだろうか。
一瞬にして、顔を青ざめさせる清架。
「……何、言ってんの」
「だから、飲んだら死ぬやつだって。ちょっとでも体内に入れば、即死。全身が痺れて、呼吸困難になって、苦しみながら死ぬんだって」
清架の表情が、一瞬で変わった。
目が見開かれ、肌の血の気は失せ、呼吸が浅くなる。
「ちょ、ちょっと待って何言って……ヤりたかったとか、そういうんじゃないの?」
「あは、まさか。もうそんなガキじゃねーし」
ゆっくりと、瓶を揺らした。
水に混ざった薬の成分が、淡く濁った渦を作っている。
「……殺す気なの、私を?」
怯えた清架を前に、俺はちょっと目を細める。
もし、この手でお前を殺すことができるほどに、俺の心が自由だったなら。
復讐者らしく、完全な悪者になれたなら──どれほど、楽だっただろう。
