清架と住んでいたあの家は、今や、ただの廃屋だった。
初めて訪れたあの日、まるでどこか夢の中のようで、今までに見たことがないほど綺麗だと思ったあの家は。
今やその面影を完全に失い、年季が入って朽ち果てた姿と化していた。
……こんなに小さかったっけな。
そんなことを思いながら、ポケットから合鍵を取り出す。
時間だけが過ぎる中、ずっと囚われたように持っていたこの鍵は──まだ、刺さった。
鈍い音と共に、鍵が回る。
思っていたよりもずっと簡単に開く扉。
埃の匂いと静けさの中、背に抱えた清架を引きずって、リビングまで連れて行く。
そのまま、ソファにドサッと身体を横たえると、窓の外から射し込む光が、清架の寝顔を仄白く照らした。
……相変わらず、憎らしいほど綺麗な横顔。
「……起きろよ」
ひとつ、言葉を落とす。
応答はない。
……当たり前か、寝てるんだから。
俺はちょっと息を吐くと、その髪を乱暴に掴み、思い切り揺さぶった。
「起きろって」
「……っ?!な、何っ──」
清架の瞳が、ぱちりと開く。
混乱で揺れたようなその瞳が、次第に焦点を結び──目の前に立つ俺の姿を捉える。
そして視線は、ゆっくりと周囲をなぞって。
埃っぽい空気、剥がれた壁紙──
過去の残骸に囲まれながら、ようやく、ここがどこなのかを理解したらしい。
「……これ……どういう、こと……?」
掠れた声。
俺はちょっと首を傾げ、甘い微笑みを貼り付ける。
「事務所に来るって聞いてさ。会いたかったよ、清架」
その言葉に、数秒間、沈黙が落ちる。
そして──
「……いや、いやいやいや、待って?理由になってないって……意味分かんないんですけど」
顔を引き攣らせ、清架は呆れ混じりに笑った。
「一体なに、復讐劇でも始めたいの?わざわざこんなとこまで連れてきて……」
「懐かしいでしょ〜。感動の再会ってやつ?」
いつも通り軽口を叩きながら、少し笑ってみせる。
本当は、久しぶりに清架を前にして心がざわついて仕方なかったけれど、決してそんなことは悟らせない。
「……まだ私に捨てられたこと根に持ってんだ?すっごいねぇ、逆に尊敬」
ふてぶてしい態度で、バカにしたように鼻で笑う清架。
──ああ、変わっていない。
久しぶりに会えば、何か変わっているのかもしれない、とどこかで期待していた。
けれど、まるっきり同じだった。
他人の人生を踏み躙って、挙げ句の果てには放棄して、それを全て笑い飛ばせるほどの厚顔無恥。
──って、俺も人のこと言えた立場じゃないっけ。
