檻みたい。

榛名優羽の家を前に、まず思ったことはそれだった。

昨日は夜だったし雪の中だったから分からなかったけれど、この家を見るに、榛名優羽はお金持ちなんだろうな。

ガラスとステンレスを多用したファサードは、すごく近未来的で、まるで宇宙船。

家の中を見ても、驚かされることばっかり。

エレベーター、自動ドア、並ぶ家電はどれも最高級ブランド。

そして極め付けに、家の前に停められた黒塗りのメルセデス・ベンツ。

「乗って」

優羽の、感情を乗せない笑顔。

嫌な感じだなぁと思いつつ、私はベンツの助手席に乗り込んだ。

車内の静寂の中、横目で優羽の横顔を盗み見る。
冷静で、人を圧倒する雰囲気。普通の仕事じゃなさそう。
芸能関係? それとも……。

そんなことを考えているうちに、車が目的地に滑り込んだ。

優羽に促されるまま、車のドアを開ける。

降りた先には、無機質なモノトーン調の建物。
エントランスには、『Lumiere Hair&Beauty』というスタイリッシュな金文字が飾られ、陽の光を反射していた。

美容サロン? 嫌な予感がする。

「ここって……?」

恐る恐る尋ねると、優羽は微笑んだ。

「千歳の男装に協力してくれる店だ」

聞いた瞬間、脳がフリーズした。

もう始まるの、それ……?