ちょっと呆れつつ、電話越しの彼女に再度話しかける。

「小夜さん、Web明細確認できますか?」

『う、うん……ちょっと待って……』

カツカツ、とネイルがスマホに当たる音が聞こえ、その数秒後。

『あった……!4分前。コンビニで何か買ってる』

すぐに送られてきたスクショを確認して、私は声を上げる。

「……墨丘市」

それを聞いた葵の目が、ほんの一瞬だけ鋭くなった。

まるで、心当たりがあるみたいな。

そして、葵はそのまま私からひょいとスマホを奪い取る。

「小夜、ありがとう。見つかったら連絡する。じゃ」

『えっ?ちょ……』

戸惑う小夜ちゃんを無視して、プツン、と無言で通話を切る葵。

えっ、そんな、勝手に……!

まだ引き出せる情報があったかもしれないのに、とちょっと抗議の視線で葵を見上げると、あやすみたいにぐしゃっと髪を撫でられた。

「さすが詐欺師」

「……人聞きの悪い」

拗ねたように言うと、葵はクスッと笑う。

「でも、おかげで当たりはついた。でかしたよ」

「……もうですか?」

私の問いに、葵はスマホの地図アプリをズームしながら答える。

「墨丘市は、都市郊外の小さな市で──京と清架が昔住んでいた家のある場所だ」

その葵の言葉に、どくん、と心臓が高鳴った。

昔住んでた家。

京にとって、全てが始まり、全てが壊れた場所。

今、京がそこにいることは、決してただの偶然なんかじゃないだろう。

「まず行くとしたら、その家からだね。今から車飛ばせば20分弱で着く」

手早く腕時計を確認すると、葵は迷いなくカバンを肩に引っ掛ける。

その動きは落ち着いているように見えて、静かな焦りがにじんでいた。

私も急いでコートに袖を通す。

「行くよ」

「はい」

ぐずぐずしている暇はなかった。

喉元まで迫り上がる焦燥感を抑えるように、ゆっくりと深呼吸。

……見つけなきゃ。

何かが、起こってしまう前に。

彼が、自分の手で自身を壊してしまう前に──。