「……繋がんない」

隣で京に電話をかけ続けていた葵が、焦燥感の滲んだ声音で吐き捨てた。

舌打ちしてコール音を切ると、はぁ、と大きなため息を吐く。

「小夜なら何か知ってるかも」

そう言って、素早くスマホを操作し、今度は小夜ちゃんに電話をかける葵。

1コール、2コール、3コール。

4コール目の途中で、プツン、と呼び出し音が切れた。

ザザ……というノイズの後。

『……葵!京くんが、京くんがっ……っ!!!』

明らかに取り乱したような小夜ちゃんの声が応答し、私たちは思わず息を呑んだ。

泣きじゃくって呼吸が上手くできないみたいに、ひっくひっくと言葉を詰まらせ続ける小夜ちゃん。

「落ち着いて、小夜。何があった?」

葵の問いに、小夜ちゃんはなんとか深呼吸をして、言葉を繋ぐ。

『私、と……別れる、って……!!』

その言葉に、私と葵は思わず顔を見合わせた。

──京が、小夜ちゃんを切った。

つまり、もう彼女を必要としなくなったんだ。

『今回の審査が終わったら、私と心中してくれる、って言うから、毒、渡したのに……全部……全部、嘘だったって!!もう嫌だ嫌だ嫌だ!!生きていけない……っ!!』

……大好きだった人に、利用されていただけだと分かって、捨てられる辛さ。

それを一番よく分かっているのは京のはずなのに。

いや、一番よく分かっているからこそ、だろうか。

どちらにせよ、今の小夜ちゃんはもう手がつけられない状態。

「マジで落ち着け、小夜」

『うるさい!!あんただって私のこと捨てたくせにっ……!!』

小夜ちゃんからだいぶ火力の高いパンチが飛んできて、うっ、と言葉を詰まらせる葵。

……うん、人を傷つけたことのある人間が、傷つけられた側に何を言っても説得力はないよね。

私はちょっとため息を吐くと、ちょんちょん、と葵の肩を叩く。

口パクで『貸して』と言うと、葵はちょっと訝しげながらもこちらにスマホを渡してくれた。

私はすぐさまスマホを耳に当てて、一瞬咳払いし、声のトーンを調整。

そして。

「……初めまして。京のルームメイトの榛名千歳です」

聞き慣れない声に戸惑ったか、小夜ちゃんの荒れが一瞬鎮まった。