「『俺はもう問題児じゃないですから、干渉しないでください』って、そう言われてるような感じ。何かを隠してるとしか思えない」
ぐしゃ、と手癖のように髪をかき上げながら、そんなことを溢す。
……分かる。
京の、他人に踏み込ませない、一線を引いているような感じは以前からあった。
けれど、最近になってそれがさらに強くなったような。
「ま、何事もなく明日が終われば関係切れるし、それでいいんだけど……」
葵がそう言いながらカバンを肩に引っ掛け、楽屋のドアを開けた、その瞬間だった。
──ざわっ、と、一瞬にして変わる空気。
「居た?!」
「居ない!!観客席側も確認して!!」
廊下に響く、切羽詰まった声。
開いた扉の向こうでは、複数のスタッフが血相を変えて右往左往していた。
何か、ただ事じゃない雰囲気。
しかも、見覚えのない顔ばかり──エマプロの番組チームじゃない。事務所関係か……?
思わず葵と顔を見合わせていると、そのスタッフさんのうちの一人が、こちらに駆け寄ってきた。
顔面蒼白、荒い息のまま、言葉を繋ぐのもやっとの様子。
「あのっ……すみま、せん、人を探していて」
「落ち着いてください、何かあったんですか?」
いつも通り落ち着いた態度で、静かに問う葵。けれど、その声音の裏には隠しきれない緊張が滲んでいた。
嫌な予感がする、と思った次の瞬間、スタッフが顔を上げて──
「……女優の、若原清架さんが……」
──時が、止まった。
葵が何かを言いかけたけれど、それは言葉にならなかった。
「事務所に打ち合わせに来ていたのですが、ちょっと目を離した隙に、行方不明に……最後の目撃情報が、この特設ステージ付近で」
スタッフの言葉が、遠くなる。
ざわつく廊下、慌ただしく指示を出すスタッフたちの声──
全ての音が鈍くなっていき、私の脳内にはある一つの最悪の可能性が思い浮かんだ。
──峰間京。
若原清架に人生をめちゃくちゃにされた、一人の少年。
最近の彼の静けさ、決して踏み込ませない距離感。
……まさか、と思った。
けれど、同時に。
──彼ならやる、とも思ってしまった。
