それから、峰間京は本当に今まで通り練習に顔を出すようになった。

ダンスも歌もちゃんとやるし、メンバーとも軽口を交わしては楽しそうに笑ってる。

……本当になんだったんだろう。

最初の方は、かなり訝しく思っていた。

けれど、とりあえず練習に害はない以上、結局それ以上彼に踏み込んで聞くことはなかった。

必要以上に干渉してまたふいっといなくなられるのも怖かったし。

何より、私なんかが、彼の傷に寄り添っていいほどの人間だとは思えなかった。

……もやっとしない、と言えば嘘になるけれど。

京本人にはあまり触れないで乗り切るのが、今の最善策なのかな、と思っていた。

そうして迎えた、本番前日。

今日は、ステージリハーサルの日だった。

事務所に付属された特設ステージで、衣装を着て、照明や音響と合わせて最終調整をする日。

その舞台は、相変わらず葵の独壇場で──審査員たちにも、当然それを指摘されて。

なのに、京は落ち着き払っていた。

焦燥も苛立ちも見せず、淡々と、分かりきった常識を聞くかのように、最後の講評を受けていた。

「……変だよね」

不意に、隣に座った葵が溢した。

私は反射的に顔を上げる。

ほとんどのメンバーが自室に帰った中、楽屋に残った私と葵。

正確に言えば、疲れ果ててろくに動けない私が回復するまで、葵が残ってくれていたんだけど。

そろそろ帰ろうか、といった空気になったところでの、葵のそんな発言。

私もずっと思っていたけれど、目を背け続けていたことだった。

「……峰間京ですよね」

「ん」

ラフな黒パーカーに着替えた葵は、本番用の衣装をハンガーラックに掛けながら、軽く頷く。

「戻ってきてからのあいつ、静かすぎる。まるで、俺に『目をつけられないように』してるみたいな」

「……」

確かに、京は戻ってきてから、やたらと葵に噛み付くことも減った。

てっきり、私への執着がなくなったからだと思ってたけど……そういう見方もできるか。