「──っ、がっ……!」
男がよろけ、その場に倒れ込む。
弾き飛んだ金属の指輪が、アスファルトの上に落ちる甲高い音。
「……サカってんなよ」
吐き捨てるように言いながら、京は前髪の奥で目を細めた。まだ両手はポケットに突っ込んだまま。
「テメェ、ふざけんな──ッ!」
スキンヘッドの男が声を荒げ、拳を振るう。
その瞬間、京は半歩だけ下がった。
重心を滑らせるように抜く。たったそれだけで、男の拳が空を切る。
──その一連の動きは、恐ろしいほど無駄がなかった。
「ガラ空き」
耳元で京が言った瞬間、ぐらついた男のみぞおちに──
ガンッ!
鋭い膝蹴りが、一直線に肋を砕くように突き刺さった。
鈍く、硬い音と共に、目を見開いたまま崩れ落ちる男。
「か、はっ……!」
──たった一撃で、大の男が立ち上がれなくなるほどの精密さ。
その異常に洗練された動きに、私は唖然として立ち尽くす。
「えぇ……?」
脳が状況を処理できず、そんな声だけが無意識に唇からこぼれ落ちた。
「峰間……テメェやりやがったな!!」
もう一人が再び立ち上がり、京の肩を掴んで殴りかかる──
けれど。
振り上げた腕に、一瞬の隙。
そこへ滑り込むように、京は身体をひねり、肘で男の顎を突き上げた。
「がっ──……!」
ガクン、と頭がのけ反り、男はそのまま地に崩れ落ちる。
──と、同時に、ふっと肩越しにこちらを見る京。
「逃げるよ」
その言葉が落ちきるより早く、手首をグイッと引かれる。
「おいっ、逃さねぇぞ……!!」
背後から、ドスの効いた怒鳴り声が飛んでくるけれど。
その声すらほんの数秒で聞こえなくなるほど、京の走るスピードは速かった。
