「落ち着け」

耳元に落ちる低い声と共に、ぐしゃ、と乱暴に頭を撫でられる。

「……また千歳はそうやって、自分を責めすぎる。これ以上なんかネガティブなこと考えたら殺すよ」

彼のそんな言葉に、喉の奥がぎゅっと締めつけられた。

……だって、自分のやったことは、取り返しのつかないことで。

きっと京は、もう二度と戻ってこな──

「こら、言ったそばから」
「いっ……!」

急に、額に強めのデコピンをお見舞いされ、思わず額を抑える。

涙目で見上げると、葵は思いの外柔らかい表情でこちらを見ていた。

「……確かに、千歳の言ったことは、京を傷つけたかもしれない。けど、それって全部『知らなかったから』じゃん」

息が、止まる。

葵は、赤くなった私の額を軽くさすりながら、子どもをあやすみたいに言った。

「知らないことは、罪じゃない。……知ってるのに、何もしないのは、罪かもしれないけど。たとえばほら、俺とかね」

……え。

戸惑う私に、あっけらかんと続ける葵。

「京の過去、だいたい知ってた。……でもさ、別に俺が助けたところで何になる?って思って。関わるの、正直めんどくさかったし」

「あ……」

「この他人への興味の無さ、ちょっとは見習えよ」

少しだけ自嘲気味に笑いながら、葵はぽん、と私の頭を軽く叩いた。

そしてふいに距離を取って、ポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。

「……葵先輩?」

「行くでしょ。京のとこ」

「……えっ?」