『やめなよ、他の女の子を誰かと重ねて見るの』
『寂しさを埋めるために、その場しのぎで女の子を使って』
……なんて、傲慢な言葉だったんだろう。
自分の正義感で、善悪で、綺麗な『普通』の物差しで、彼の深い傷を勝手に測って──
本当、何も知らないくせに。
『やめなよ』って言われて、そう簡単にやめられるって?
京の中にある傷は、努力でどうにかなるようなものじゃない。
痛みが骨まで染みついてて、心の形そのものを、ぐちゃぐちゃに歪めてしまってるんだ。
「……どうしよう……」
気づいた瞬間、自分の足元が崩れていくみたいだった。
私の言葉は、優しさなんかじゃなかった。
ただの、無知だった。
何も知らずに、傷をえぐっただけ。
思いやるつもりで発した言葉が、本当に優しくあるべきときに、彼を一番傷つけてしまった。
気づけば、胸の奥が熱くて、苦しくて、呼吸が上手くできなくなっていて。
「わたし……京、に……」
謝らなきゃ。
そんな言葉すら、喉につっかえて、上手く出てこなかった。
謝るって?
謝ったとして、何になるの?
ただ自分の罪悪感を晴らすためだけに、もう一度京と顔を合わせようって?
京はきっと、私の顔なんて見たくもないはずなのに。
二度と彼の視界に入らないことが、今の私にできる最善策なんじゃ……。
「……せ、おい、千歳!」
ぐらぐらと揺れていた視界が、次の瞬間、暗くなった。
──葵に抱きしめられたのだ、と気がついたのは、数秒後だった。
