それから俺は自暴自棄になって、俺はその寂しさを他にぶつけるみたいに、女遊びに走るようになった。
俺が他の女の子といることを知れば、少しはこちらを気にしてくれるかもしれない、と思った。
けれど、当然、そんなことが起こるはずもなく。
気づけば俺たちは完全に疎遠になって、他の女の家に泊まることばかりで、家に帰ることも少なくなって。
中学を卒業したら、就職して、家を出て決別しよう。
密かにそう決意して、頭の中から清架のことを消そうとしていた。
──なのに。
あれは確か、中二の年の瀬だったろうか。
久々に家に帰ると、門の前にパトカーが停まっていたのだ。
一体何事だと思って、足を早めて家に入ると、リビングで警察官が二人、テーブル越しに清架と向かい合っていたのだ。
彼女は、今までに見たことがないほどやつれて、壊れた人形のように項垂れていた。
『君が息子さんか?』
そう声をかけてきたのは、年配の刑事だった。
警察手帳を見せながら、淡々と告げられる。
『お母様に、麻薬所持の容疑がかかっている』
……脳が、言葉を理解するのに少し時間を要した。
息が詰まるほど静かな1時間の聴取を終えて、警察は一旦引き上げた。
ようやく音を取り戻したリビングには、時計の針の音だけが静かに響いていた。
──そして、その日の夜のことだった。
俺の寝室のドアが、静かに開いたのは。
『……京』
久々に聞いた、柔らかく甘ったるい声音。
部屋にふわりと漂うのは、いつか心を落ち着かせてくれたはずの香水の匂い。
数年ぶりのその甘い香りに、俺は顔をしかめた。
だって、この香水をつけるときの清架は、決まって──
『何の用』
脳内に浮かんだ思考を振り払うように、冷たくそう言った。
清架は、そんな俺の反応に、傷ついたように眉を下げた。
──その表情に、心臓がズキンと切り裂かれたみたいに痛くなった。
『もう私のこと、嫌いだよね……』
その声は、ひどくか細くて、震えていた。
まるで俺が、本当に酷いことをしたかのように。
思わず言葉を詰まらせる。
頭のどこかでは、『騙されるな』と警鐘が鳴っていた。
でも、心が──俺の中にこびりついた依存心が、どうしても、引っ張られてしまう。
一歩、距離が詰まる。腕を伸ばせば、触れられる距離。
『ねぇ、京』
再び名前を呼ばれて、胸の奥がざわつく。
『私のこと……庇ってくれない?』
心臓が、跳ねた。
拒絶の言葉は、すぐそこまで出ていたのに、息が詰まって出てこなかった。
『京しかいないの……お願いします』
そう言って、目を伏せた清架の頬に、涙が伝う。
頭では分かっているはずだった。
この女優は、『悲劇的な役柄』を演じるのが異常なくらい上手いってこと。
けれど、ダメだった。
その表情、その声色、その視線を前に、心が勝手に揺らいでしまう。
『……出てけよ』
なんとか絞り出した声と共に、背を向けようとした瞬間。
──彼女の腕が背中に回って、抱きつかれた。
『ごめんね……ほんとに、ごめん……』
甘い香りが、強く鼻を刺す。
いつかの夜と同じ匂いだった。
その記憶だけで、身体が固まって動けなくなる。
『大好き』
その声に、頭が真っ白になった。
心が軋んだ。
嘘だってわかってた。
それでも、その言葉をずっと欲しがってた自分がいた。
そして、そのまま──
彼女の唇が、触れた。
