『京、エントランスに来なさい』
管理人に呼ばれた俺は、その指示通り、黙って玄関に向かった。
そして、扉の向こうに立っていたその人を目にした瞬間──息が、止まった。
彼女は、黒のロングコートに身を包み、こちらを見下ろしていた。
肩から緩やかに流れ落ちる、艶のある深い黒髪。
雪の反射でいっそう際立つ、白磁のように滑らかな肌。
冷たい空気の中でも微かに薫る、花のような甘い香り。
『日本人の、キヨカ・ワカハラさんよ』
そう紹介する管理人の言葉を飲み込めず、俺はただ固まっていた。
同じ日本人だなんて、到底思えなかった。
──だって、あまりに綺麗すぎる。
俺とはまるで別の世界の人。
物語の中から抜け出してきたような、美しくて、気高くて、どこか儚い存在。
怖くて、まぶしくて、思わず目を逸らした。
けれど。
彼女は、俺に目線を合わせてしゃがみ込むと、優しく微笑んだ。
『……綺麗な目ね』
さら、と俺の前髪をかき分けて、日本語でそう話しかけてきた彼女。
目が合った瞬間、心臓が、潰れそうなくらいギュッと痛くなった。
『私と一緒に来ない?』
差し伸べられた手は、華奢で、綺麗で、暖かくて。
これが夢じゃないということを確かめたくて、俺は恐る恐る、その手に自分の手を重ねた。
それが、俺と──若原清架との出会いだった。
