そんな私の様子を伺う素振りもなく、京はぐいと私の腕を掴み、そのまま強引に引っ張っていく。

そのまま引きずられるようにして京に着いていくと、人気のない階段裏で、京は立ち止まった。

くる、と振り返ってこちらを見る京。

ふわりと口元に携えた甘い笑みは、いつも通り。けれど、いつもよりどこか冷たい印象がして、息が詰まる。

「……何?」

かろうじて口にしたその言葉に、京は一瞬眉を上げ、そしてくすっと笑った。

「何、怖がってんの。取って食われるとでも?」

そのやたら甘い声音も、いつも通り。

けど、なんだろう。絶対、何かが違う。

以前の京にあった、不安定さが落ち着きすぎている。

凪いだ海みたいに、静かな瞳。

「……あれ」

京の姿をじっと観察していると、ふと目に留まったのは軟骨に開いたピアス。

──そんな痛そうな場所に、開けてたっけ。

「京、それ」

「……え?あぁ」

私の視線を辿って察したのか、「よく気づいたね」とちょっと耳を触る京。

「気紛れるかなって思って、昨日小夜に開けてもらった。……でもダメだね、慣れちゃって全然」

飄々とした表情。薄笑い。いつも通り、憎たらしいほど整った横顔。

──けど。

その痛みで、一体何を紛らわそうとしたの?

そんな問いは、喉の奥に引っかかって、言葉にならなかった。

「……用事は?」

代わりに声にしたのは、そんな事務的な質問。

できるだけ早く京のそばから離れたくて、できるだけ早く会話を終わらせたかった。

そんな私の様子に、京は一瞬目を細めて。

──トンッ。

京の腕が、私を壁に閉じ込めるみたいにして、距離が近くなる。

そして。


「俺と付き合ってよ」


……息が、止まった。