「……なんか、今日峰間荒れてね?」

練習後。

ラウンジで隣に座った雪斗が、ぼそ、と呟いた。

その言葉に、私は弾かれたように顔を上げる。

「やっぱ?」

私の反応速度に、雪斗は一瞬驚いたように眉を上げ、ちょっと黙った後、こくりと頷く。

「特に、葵さんに向ける視線がヤバい。何しでかすか分かんない感じ」

そんな雪斗の観察に、私はちょっと息を呑む。

──気がつかなかった。

ただ、私が避けられているだけかと思ってた。

そんな私たちを前に、怪訝そうに首を傾げる明頼。

「そーか?俺はフツーだと思ったけど。いつも通りムカつく」
「あっそ」

雪斗に小馬鹿にしたように笑われ、苛立ってぴくりと表情筋を動かす明頼。

「その顔をやめろ」
「どんな顔?」
「ハッピー単細胞野郎めって顔」
「分かってんじゃん」
「潰すぞテメェ」

殴り合いに発展しそうな二人の間に、いつも通り割って入る。

「くだらない喧嘩やめて、耳障り」

カメラが無いので毒を吐いて無理やり止めると、明頼は一瞬真顔になったあと、ぐっと噛み締めるようにガッツポーズ。

「ドSキクぅ……!」
「気持ち悪」

思わずガチトーンで言ってしまった私に、雪斗が吹き出した。

「引かれてんぞ明頼」
「いいんです、それでいいんです。天使からの施しに感謝」
「なんなの?」
「つまみ出そうかこいつ」

そんなふうにして、私たちがいつも通り、練習後の時間を騒がしく過ごしていた時だった。

ふ、と目の前に影が落ち、次の瞬間、トン、と肩に手が乗る。

「お疲れ」

聞き慣れた声。

振り返ると、そこに立っていたのは、肩にタオルをかけた峰間京。

練習後、乱れた髪の隙間から見える瞳は、私を見てるようでいて、どこかもっと遠いところを見てるみたいで。

ドクン、と心臓が嫌に高鳴った。

「借りていい?」

ぐしゃ、と私の髪を乱雑に掴み、雪斗と明頼を見る京。

言葉上では彼らに許可を求めているようだけれど、その視線には、有無を言わせぬ色があった。

「……あ、ああ」
「……」

その雰囲気に気圧されたみたいに、ちょっと狼狽えながらも頷く二人。

──やけに落ち着いた京のテンションが怖くて、自然と呼吸が浅くなる。

今日の京、やっぱりどこかおかしい。