……最近、自分でも驚くくらい、感情のコントロールがうまくいっていない。
原因は分かってる。
ひとつは、鷹城葵──やたらと挑発してくる、あの性根ド腐れ男のせいだ。
取るに足らない奴からのくだらない煽りだったら、いくらでも受け流せる。
適当にあしらって、カウンターで黙らせるようなことは得意分野だ。
けど──葵の発言だけは、そうもいかない。
何をやっても俺より上手くやるあいつからの『正しい』指摘は、予想以上に効いていた。
──昔から、嫌いだった。
才能に溢れて、要領が良くて、好かれ上手。
同じ職場で、俺よりも近くで『あいつ』に笑いかける、その顔が。
最近、彼を見るたびに胸の奥に黒い感情が疼いて、いつもみたいな調子を保てないのだ。
そして、もうひとつの原因は、榛名千歳の存在。
彼女が女だって最初に分かった時には、正直、ちょうどいい『暇つぶし』になる、って思った。
オーディション期間中に、いちいち他の女のところに通わずに済む。
いかにもつけ込みやすそうで、可愛くて、ノリも普通に良くて、深入りしなければすぐに切れる。
俺の空白を満たす存在として、使い捨てになるだろうって思ってた。
……けど、どうしてだろう。
性格も、恋愛観も、すべてが違うのに。
決して俺を映さないその瞳に、時々『あいつ』の横顔が重なって見えて。
気づけば俺の方が、やたらと執着するようになっていた。
……本当に、馬鹿みたいだ。
どこもかしこも、全然似てないのに。
絡まりかけた思考を吐き出すように、大きくため息をついて、スマホの充電器をコンセントからカチリと引き抜く。
光の落ちて暗いリビング。誰もいない、静けさに沈みきった空間。
──だからだろうか。
作業部屋のドアの隙間から漏れ出る光が、妙に眩しく見えた。
