さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


私は、ちょっと考えた後──すっ、と葵の手を取った。

久しぶりの、自発的なスキンシップ。

そのまま自分から指を絡ませて、ぎゅっと握ってみる。

そして。

「──なに、甘やかしてほしいんですか?」

ちょっと揶揄うように目を細めて、優しく囁いた。

数秒間、沈黙が落ちる。

俯いた葵は、何も言う気配がない。

──急すぎたかな。それとも、弱すぎた?

やっぱり押すにはまだちょっと早かったかも、と不安に思って、葵の表情を伺おうとすると。

「……」

──え。
焦ったようにそっぽを向く葵の顔は、動揺と焦りで少し赤い。

──嘘、効いてる?

今まで見たことがない狼狽え方に、驚いて目を見開く。

やっぱり、冷たくされてきた分、急な甘さに弱くなってるんだ。

……このまま攻めてみようか。

だって、今ここで、葵に『好き』って言わせることができたら──

いつも翻弄されてばかりだった葵との鬱陶しい駆け引きにも、終止符を打てるんだから。

こんな絶好のチャンス、逃す方がバカだ。

「先輩、こっち見てください」
「……嫌」
「なんでですか?」

頬に手を添えて、ちょっと強引にこっちを向かせる。
すると。

「ってめ……」
顔を真っ赤にして、抗議するように睨んでくる葵。

──……うわ。

やっぱり、この作戦、効果絶大。

最初だけ押して、その後は限界まで引いて──諦め寸前のところで、もう一回押す。

その『揺さぶり三段構え』がこれ以上無いほど綺麗に決まったのを実感して、私は自分でもびっくりしてしまっていた。

「……正直、私のこと好きですよね?」
「違う」
「嘘つき。私が京を好きなんじゃないかって、めちゃくちゃ焦ってたでしょ」

その言葉に、ようやくハメられたことに気づいたのか、軽く息を呑む葵。

──今更気付いたって遅いよ。

今まで散々強引に迫られてきた恨みもあるし、この機会に仕返してやる。

そんな私怨も込めて、私はここぞとばかりに続けた。

「好きって言ってくれたら、これ以上詰めるのやめてあげますけど──」

する、と繋いだ手をさすりながら、さりげなく葵に身を寄せる。

「どうします?」

囁いて、薄く微笑んだ──次の瞬間。

──ぐいっ!

無理矢理顎を掴まれ、顔を上向かせられた。

「……うるさい」

──あ、やば。

苛立った声音に、やりすぎた、と後悔した瞬間。

ぐっ、と一瞬にして距離が近づいて。

そのまま、強引に唇を奪われた。

「……っん──!」

反射的に押しやろうとしても、葵の手が後頭部と背中に回されていて身動きが取れない。

いつもみたいなリードするようなキスじゃなくて、苛立ちをぶつけるみたいな、理性のない激しいキス。

それだけで、さっきまでの圧倒的優位が、一瞬にして崩れたのが分かった。

「……っはぁ、」

ようやく唇が離れたと思ったら、今度は首筋に唇が落ちて、ちゅ、ちゅ、と何度もキスを落とされる。

……やばい、調子に乗りすぎた。

こんなに余裕のない葵は初めて見て、私はやたらと彼を煽ったことを今更後悔する。

「っ、待って先輩、ごめんなさ……」
「何が?」

熱を含んだ瞳に射すくめられ、指が私の唇をなぞる。

「煽ったのそっちでしょ……責任取ってくれるよね」

完璧に理性を失った葵を前に、身がすくんで動けない。

壁際に閉じ込められて、逃げ場は皆無。

そのまま、再度近づく距離。

もう受け入れるしかない、と思って、ぎゅっと固く目を瞑った、その時だった。