最初は、なんとも思っていなかった。

きっと、また鷹城葵が気まぐれに選んだだけの女の子。

どうせすぐに飽きられて、捨てられるんだろうな。

かわいそ。

そんな、同情の視線さえ向けていた。

──なのに。

『……小夜ちゃんはそれでいいの?』

あの瞳に真っ直ぐ見つめられるたび、私の中で嫉妬の火種が燻り始めた。

──だって、あまりにも『綺麗』だから。

ほとんど壊れてるみたいな私を、まるで自分のことみたいに心配するような目で、真っ直ぐに見つめてくる。
まるで、今の私に救いの余地があるみたいに。

……馬鹿みたいだ。

何も分かってない。
ただ、全ての人の根底には善があるって、信じて疑わないような純粋無垢な姿勢。

きっと、さぞ幸せな家庭で何不自由なく育ったんだろう。でないと、こんなにも真っ直ぐな優しさを、光を持てるわけがない。

──妬ましい。

生まれつき綺麗な顔、綺麗な心、他人に手を差し伸べる余裕。

葵からの愛情。

全部全部、私には無いもの。

もしも私が彼女のようだったら──葵も、私にずっと優しくしてくれていたんだろうか。

愛想を尽かさずに、今でも一緒にいてくれていたんだろうか。

京も──もしかして、ああいう『綺麗』な子が好きだったりするんだろうか。

ちら、とベッド脇の椅子に腰掛けスマホを触っている京を見る。

オーバーサイズのパーカーを羽織り、そのはだけた首元から綺麗な鎖骨が見える。

乱れた髪が目元に落ち、その気怠げな横顔を際立たせて、胸が少し苦しくなった。

さっきまで、一番近くで抱きしめてくれて、可愛いっていっぱい言ってくれてたはずなのに。

今の京の瞳には、私のことなんて微塵も映ってないみたいだ。

そのとき、不意に京の視線がこちらを向いた。

いつも通り、悪戯を仕掛ける直前の猫みたいに、すっと目を細める京。

「なに?そんな見て」

揶揄うように言うその声が、少しだけ掠れているのがまたズルい。

「見てない」
「見てたっしょ。やらしー」
「違うもん、自意識かじょー」
「はー?」

いつも通りちゃらけたノリで軽口を叩き合いながら、ちょっと安心する。

──うん、京は大丈夫。

京は、ノリが良くて、顔が可愛くて、面倒じゃない女の子なら誰でもオッケー。

その条件から外れなければ、いつでも優しくしてくれるって知ってる。

本命にはなれない、深くは愛してくれないけど、それは誰だって同じだから。

一番にしてなんて面倒くさいことは言わない。

葵の時の失敗を教訓に、どれだけ不安でも嫉妬しても、京にだけはそれをぶつけないように努力してきた。

そうやって頑張り続けたから、私は選ばれたんだ──京の、最期の彼女に。