「わー、すごーい」

完成した料理を並べる私を見ながら、ぱちぱちと手を叩く小夜ちゃん。

その声音は、気だるげで興味なんか無さそうだった。

「いつも葵にご飯作ってあげてんの?」
「うん、できるだけ……」
「へぇー……なんか、あれだね」

そこで一拍置き、私を見据える。

「尽くしてる自分に酔ってるって感じ?」

ぴた、と一瞬手が止まった。

ずっとスマホを見ていた京でさえ、ちら、とこちらに視線を向ける。

「押し付けがましいって言われない?お節介、とか」

──ただの嫉妬から口走った言葉だって、頭では理解していた。

けど、小夜ちゃんにその言葉を投げかけられた瞬間、二次審査でのあの出来事が、鮮明に脳裏に蘇ってしまった。

『何も知らないくせに』

遥風に真正面から突きつけられた敵意。

遥風のためだとか言って自分の願望を押し付けて、結果的に遥風を追い詰めてしまったあの出来事。

……小夜ちゃんの言う通り、私は確実に、他人の領域に踏み込もうとしすぎてる節がある。

お母さんの教え通り、他人の感情に敏感になろうとしているせいで、人のことを分析してしまう癖があるんだろうけど。

それが、他の人にとっては不快だったり、自分の領域を侵害されてるみたいに感じることだってあるかもしれない。

遥風にとっても、きっとそうだったんだろうな。

彼の苦しみに勝手に踏み込んで、勝手に悩んで、勝手に動いて。

もし、あのとき余計なことをしなければ──

私はまだ、遥風の隣にいられたのかな。

喉の奥がきゅっと詰まった。

唇を噛んで、思わず視線を下げる。

──と、その時。

「……やめな、小夜」

静かな声が響いた。

声の主は、鷹城葵。

こっちに視線は向けず、カタカタとパソコンのキーボードを打ちながらだけど、その声音には有無を言わせぬ色があった。

「料理は、俺が頼んでやってもらってんの。……嫉妬丸出しで絡むの、みっともないよ?」

小夜ちゃんの笑顔が、一瞬で固まる。

そのまま数秒間、何も言わずにじっと葵を見ていたかと思うと、ゆっくりと視線が私へと向いた。

「……ふーん」

そんな言葉と共に向けられたその瞳には、もう笑みの影すらない。

感情のすべてを削ぎ落としたような、冷え切った黒。

……あ。

私今多分、小夜ちゃんの殺人リストに追加された。

……前々から思ってたけど、小夜ちゃん、もう葵には吹っ切れてるって口では言いながら、私と葵の距離感をやたらと気にしてるなって思ってた。

葵がいつも自分から誘ってくるのかとか、どこまでやったのかとか、めちゃくちゃ聞いてくるから。

きっと、自分を捨てた男が、別のお気に入りを見つけて丁寧に扱ってるのは、彼女のプライドが許さないんだろう。

私は脳内で、頭を抱えて盛大にため息を吐いた。

……絶対、今日のご飯は味がしない。

そんな地獄みたいな空気の中、史上最悪の夜は幕を開けるのだった。