──と、そんなわけで。

「一週間ぶりの葵ん家、とうちゃーく♡」

その日の夜は、脅迫された葵が極めて超不本意ながらも京と小夜ちゃんを自宅に招待する、という地獄みたいなイベントが開催されることとなった。

「あ、『冬優ちゃん』、お久しぶりです」

小夜ちゃんの隣で、薄く笑みを浮かべて手を振ってくる京。

私も硬い笑みを浮かべて、会釈を返す。

いつもタメ口で気軽に話せる仲である分、小夜ちゃんの前での敬語の微妙な距離感に慣れない。

「今日は髪下ろしてるんすね〜。可愛い」

息を吐くように口説いてくる京を前に、私は思わず頬を引き攣らせた。

京、それはやばいんじゃないの……。

そう思って、恐る恐る小夜ちゃんに視線をずらすと。
──案の定、じとりとした目でこちらを私を見つめていた。

黒く濁った水面のような瞳。その奥に渦巻くのは、明らかな敵意。

……このまま黙っていたら修羅場が勃発する。

本能的に危険を感じた私は、そそくさと逃げるように京たちから離れ、一人キッチンでご飯の準備を始めた。

もう大方作り終えてあるから、あとはよそうだけ。

さっさとご飯食べてもらったら、私はできるだけ京と一緒にいる時間を避けるために、部屋に篭らせてもらおう。

そんなことを思いながら、白米を茶碗によそっていたとき。

「ねー」

甘ったるく伸びた声が聞こえてきた。

顔を上げると、ダイニングのソファから身を乗り出した小夜ちゃんの姿。

首を傾け、にこりと笑いかけてくる。

「冬優ってさー、どこ整形したの?」
「……え」

予想外の質問に、一瞬目を見開く。

そんな私の反応にちょっと目を細め、意地悪く続ける小夜ちゃん。

「えー?だって、整いすぎてて不自然じゃん? 埋没?涙袋?それとも輪郭?」

……あぁ、完全に、敵意を向けられている。

小夜ちゃんって、京の浮ついた女癖に関して、京に対しては寛容でいるけど、相手の女側には容赦ないとこある。

初めて葵の家に突撃してきた時も、浮気相手の女とやり合う気満々だったし。

そんな小夜ちゃんに、今ロックオンされているという現実に、心の中で重いため息がこぼれる。

「やってないけど」
「あー、ごめんごめん、彼氏の前じゃ答えづらいか!」
「はは……」

愛想笑いで流しつつ、私は湯気の立つ味噌汁の器を手に取る。

お盆に並べてダイニングに持っていき、机に並べる間も、小夜ちゃんからの強い視線は逸らされる気配がない。