「……ですよね。ごめんなさい、変なこと言って」

まるで、思わず本音がこぼれたみたいに。

慌てたような風を装って、さっと目を逸らした。

静寂が落ちる。

まるで、互いに何かを探るような、張り詰めた沈黙。

そんな静寂を破ったのは、葵の方だった。

「……京にキスされて、情が移った?」

珍しく、本気の焦燥感が滲んだみたいな表情。
私は、その言葉に、ちょっと目を伏せる。

「……どうなんでしょうね」
「ふーん、案外チョロいんだ、あんたって」

ちょっと揶揄うような表情で、そんなことを言う葵。

……余裕ぶってるけど、きっと心の中ではかなり焦ってるはず。

一体、いつまで冷静ぶっていられるのかな──。

と、そんなことを思っていたときだった。

ヴーッ、と葵のスマホが振動して、その画面にDMの通知が映し出される。

その送り主は──小夜ちゃん。

「なんだ……?」

ちょっと怪訝そうに眉をひそめつつ、その通知を確認する葵。

そして、その文面を見た途端──文字通り、苦虫を噛み潰したような顔になった。

……なんだろう?

内心首を傾げる私に、葵がため息混じりにこぼす。

「……ごめん、千歳。ただでさえ顔色悪いのに、さらに疲れるようなこと言っていい?」

「……嫌ですよ?」

流石に嫌な予感がビシバシして、思わずそう答えるけれど。

そんな私を無視して、黙ってスマホを差し出してくる葵。

受け取って見ると、その画面には小夜ちゃんとのトークが映し出されていて。

『ごめん、今日家の治安やばくて帰れないから泊まるね。あと京くんも呼んで♡』

その下に添付されていたのは、私と葵が一緒に話しているところを隠し撮りした画像。
そして、そのさらに下。

『↑ことわったらバラマキちゃんねる!』

……とのこと。

スマホを葵に返すと同時に、私は作り笑いを貼り付けて宣言した。

「……私今日寮にいますね。3人でウーバーでもしてください」
「待って、千歳がいなかったら多分俺精神疲労で死ぬ」
「死ねばどうですか」
「男装バラすぞ」

こいつ、相変わらず容赦ない……。

思わず恨めしげに睨むと、どこ吹く風といった様子で肩をすくめる葵。

ああ、今日の夜は絶対に精神を消耗すること確定。

私はその未来を案ずるように、深く長いため息を吐いたのだった。