「お疲れ、千歳」
頭上から降ってきた声に、ハッとして顔を上げた。
鷹城葵だった。
練習後でちょっと乱れた髪、耳元に光るシルバーのシングルピアス、透明感と甘さを極限まで詰め込んだみたいな中性的な顔立ち。
少し垂れ目気味の瞳が、ふ、と優しく細まる。
「最近めちゃくちゃ顔色悪いけど、ちゃんと寝てんの?」
そのまま、当然のように隣にどさっと腰を下ろしてくる葵。
……誰かさんたちのせいで寝れてないですね。
そんな皮肉が喉元まで上がってきたけど、言葉にはしなかった。
駆け引きの『引き』の姿勢として、冷たい言葉をぶつけるのも一つの手ではある。
けど、そろそろ別の方法を試してみてもいいかなって思っていた。
例えば──嫉妬を煽るとか。
「……京が心配で、仕方がなくって」
ちょっと苦しげに目を伏せて、ぽつり、とこぼしてみる。
「私が京を受け入れれば、少しは救われるのかなって、考えちゃうんです」
上手な嘘のつき方は、ちょっと本音を混ぜること。
私は、そんな京への本音を交えながら、ため息混じりに呟く。
「こうやって気にかけちゃうのって、恋愛感情に入るのかな……」
一瞬。
空気が、ぴたりと止まった。
ちらりと見上げると、葵がわずかに目を見開いていた。
ほんの一瞬だけ動揺が滲んで、その表情がかすかに曇る。
「……入らないでしょ」
その問いは、低くて、淡々としてるようで。
けれど、その奥にある感情を隠しきれていなかった。
……動揺してる。
