──グイッ!
急に遠のいた京の気配に、目を開けると。
そこには、京の肩を掴んだ葵がいた。
──った、助かった……?
「シャレになんないよ、お前」
フードを目深に被り、長い前髪の下から覗く瞳が、険しく京を睨んでいる。
低く、落ち着いたように聞こえる声だけど、怒気を孕んでいるのは痛いほど伝わる。
「……本気で怒ってる?珍しい」
薄く笑いながら、葵の手を振り払う京。
「葵くんが千歳ちゃんを気に入ってんのは知ってたけど、そこまでとはね」
京の言葉に、葵は表情ひとつ変えない。
「お前だろ?一体なんでそこまで千歳に執着してんだよ、らしくねーな」
葵の静かな言葉に、京は顔を上げる。
挑発的に葵を見下ろすと、ゆるく口角を上げた。
「……お前が肩入れしてるからじゃない?」
──前々から思っていた。
この二人は、もとから知り合いだったんじゃないかって。
だって、京は葵のことをよく知りすぎているし、葵は京のパフォーマンスに何かと厳しい。
何より、京の葵に対する敵対意識が、並じゃない。
パフォーマンスに指摘をされ続けていたからかと思っていたけれど──考えてみれば、それだけじゃ片付けられない『因縁』のようなものが二人にはあった。
京はソファの脇にかけてあったコートを羽織ると、自分の荷物を肩にかける。
「じゃ、またスタジオでね、千歳ちゃん」
それだけ言い残すと、くるりと踵を返して去っていった。
……今朝の京の様子は、絶対にいつもと違った。
昨日、葵と二人で話した時に、何かあったんだろうか。
何か、葵に対する対抗心が加速するような何かが。
──とりあえず、一つ確かなことは。
完全に、新たな火種が生まれてしまったってことだ。
私はまだバクバクと高鳴る心臓を抑えるように、ゆっくりと深呼吸しながら、少し目を伏せたのだった。
